お隣さん、三十日目。 ページ33
翌日。
たまたま有休消化の為に休みを取っていた為、起きた時の時刻が午前10時を回っていても慌てる必要はなかった。
昨日は楽しかったなぁ、とトーストを焼きながら思う。思い出すだけで頬が緩んでしまいそうだ。
だって、あんな仲間みたいな人達が私にも出来たなんてにわかには信じ難い事実だ。
この間買ったお洒落なコーヒーをお気に入りのカップに注ぐ。ふわぁんと立った湯気からは、少し苦い香りがして、私の鼻腔をくすぐった。
しっかりと焼けたトーストを皿に載せ、コーヒーと一緒に机に置く。
朝のワイドショーを見ながら黙々と朝食を口に運んだ。
世間では、今様々な原因による不登校などが問題になっているらしい。
まだ解決出来てないんだ、と思いながらマーガリンを塗ったトーストを貪った。
『まだ解決出来てないんだ』。
私がそう思った理由はただひとつ。
私も学生時代、その一人だったから。
クラスメートに無視されるところから始まって。
ピンポンダッシュとかならまだ可愛いものだった。
久しぶりに登校できたと思えば、机に落書きされてて。
思い出すだけで辛かった。
でも、当時の私にも友達くらいいた。
クラスメートの千夜ちゃん。
優しくて、可愛くて、笑顔が素敵で。
同い年ながら憧れだった。
千夜ちゃんは私の幼馴染みで、近所の子だった。
だから小中と同じで、高校も同じところを受けて、二人とも受かった。
私が酷い扱いを受け始めたのは、高1の秋頃。
みんな私を避けて、私もみんなを避けた。
でも、千夜ちゃんだけは、私のそばにいてくれた。
『Aちゃんは悪くないのにね』
そう笑った千夜ちゃんの笑顔を今でも覚えている。
そんな千夜ちゃんも、もっと扱いが酷くなった高2の初夏頃には、声すらかけてこなくなった。
所詮彼女もそんなものか。
そう思っていたけれど。
不登校が続いたある日、家のポストに投函された一通の手紙を、お母さんが持ってきてくれた。
宛名の所に『Aちゃんへ』とだけ記してあり、差出人の名前や住所はなかった。
封筒を開けてみると、中からは可愛らしい便箋が一枚。読んでみれば、次第に涙が止まらなくなった。
内容はさほど長くなかった。
『私はいつだって味方だよ。何でも相談してね』という一言。それがどうしようもなく嬉しくて。
それから復帰は出来なかったけど、千夜ちゃんとは今でも連絡を取り合っている。
彼女は、私の、唯一の幼馴染みで大事な女友達なのである。
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作者名:緋奈香 | 作成日時:2019年8月13日 6時