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お隣さん、十日目。 ページ12

翌日の朝。
普段より少しばかり寝坊してしまい、大慌てで支度を進めた。



今日は外回りの日だから、服装も髪型も整えないと。
だからいつもより念入りにアイロンをかけたワイシャツを着て、スーツのシワをしっかり伸ばし、髪もコテで丁寧に整えた。



化粧は濃過ぎず薄過ぎず。
鏡を見て全体的に整えて、準備完了。



「……かえって、早く終わっちゃった」



と言っても、余った時間は30分ほど。
買い置きの食パンを焼いて、急いで食べた。
30分なんて直ぐに経っちゃうから。



事実、気付けば家を出る時間になっていた。
時計を見れば、針は午前9時を指している。
『行ってきます』と小さく呟き、ドアを開けた。



鍵を閉めようとすると、隣からもドアの開閉音が聞こえ、なんとなくそちらに目をやった。



「あ、フジ君……おはよう」


「ひぃっ……Aちゃん、お、おはよう」



声を掛けてみれば、大袈裟に肩をビクリと震わせた。その仕草に違和感を感じ、首を傾げる。
鍵を閉め終わると、突然、今度はこちらが声をかけられた。



「あの、Aちゃん……昨日は、ごめんね……俺、あの後自分の言動思い出したら恥ずかしくなっちゃって……ずっと謝ろうと思ってたんだ」



フジ君は恥ずかしそうに俯き、顔を手で覆った。
いちいち行動が乙女なんだよな。別にいいけど。



「そうなの……まぁ恥ずかしくもなるわよね。でも別に謝らなくてもいいよ」


「え……?」



か細い声で問われる。
だから乙女かって。



「だって、私は別に嫌じゃなかったもん。何でだろうね、会って一週間ちょっとしか経ってないのに。不思議だねぇ」



ふふ、と微笑みかけると、彼も安堵したように溜息を漏らした。



「そっか、なら良かった……Aちゃんは、今から仕事?」


「うん、そうだよ。今日は外回りなんだよね。フジ君は?何か用事?」


「あぁ、うん。ちょっとね」



そうやって笑うフジ君の笑顔は、いつもの笑顔だ。良かった、調子戻ったみたいで。
それから少しだけ一緒に歩いて、駅の近くで別れた。



「それじゃあAちゃん、お仕事頑張ってね」


「うん、ありがとうフジ君。じゃあね」



去りゆきながらも手を振ってくれる彼は、やはり紳士だ。手を振り返し、いつもより軽い足取りで駅へと向かった。



その日の営業は、驚くほど上手くいった。
上司にも同僚にも褒められた。
私自身も、手応えを感じていた。



これも、彼のおかげかな?なんて。
それは流石にないか。

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作者名:緋奈香 | 作成日時:2019年8月13日 6時

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