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「き、聞いて…」
後ろから聞こえた声は愛する人のもの。後ろを振り返り慌てて訂正しようとするも、彼の顔を見て、その言葉は引っ込んでしまった。
だって、今にも死にそうな顔をしているのだから。
「配信中でしょ、終わったらリビング来て」
配信中であることを配慮してくれたのか、そう言って配信部屋から出て行ってしまった。片手に握られてたのはコンビニの袋だったから、きっとまたいちごオレを買ってきてくれたのだろう。
沈黙に包まれると、リスナーに何も言わず、配信を切って走ってリビングへと。
「ん、早かったね」
「あのさ、さっきの…」
「この家はそのまま住みなよ、お前の方が荷物多いし。今度俺の荷物取りに行くからそのままにしておいて。連絡先も消しておくし、配信者の立場のお前の情報を流したりしないから安心して」
「なぁ、話聞けって」
「話って何?別れたいんでしょ。…大丈夫、わかってた。俺とお前じゃ寿命も地位も人生も何もかも違いすぎるから」
早口でそう言ってしまった彼は、まとめたのであろう最低限の荷物を持って玄関へと行ってしまった。
あ、と言うと、鍵を取り出し、おそろいでつけていたキーホルダーを外した。
「荷物取ったら鍵は返す。…じゃあね」
閉まる玄関の扉に、行くな、の3文字は出てこなかった。拳を握りしめることができるのに、足は動かなかった。
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作者名:ヨッコラセ | 作成日時:2022年9月7日 11時