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座席に座ると体が楽になり、どっと疲れが出てくる。
「近くで申し訳ないんだけど、病人なんで。ロータリー左にお願いします」
そんな深澤の声に、
「わたしの家覚えてるの?」
「なんで?もちろん覚えてるよ」
「何年か前に一回しか送ってもらったことないのに、怖いわー笑」
「ストーカー扱いすんな笑 でも、なんか覚えてるんだよね。。あ、あの信号右で」
しばしの沈黙。
薄暗いタクシーの中で彼の横顔をちらっと盗み見る。
深澤の横顔、大好きだからずっと見ていたい。
でも、見つめているのを気づかれた時、なんて言い訳していいかわからないからちらっとだけ見て、すぐよそを向く。
むしろ「あなたの横顔が好きだから見つめてた」って素直に言えればどんなに楽だろう。
窓の外を眺めながらそんなことを考えていると、深澤が口を開く。
「ここのとこ、雨、ずいぶん降ってたよな」
「ん。。」
「A、雨好きだって言ってたよな」
「。。。うん」
「雨が降ると木とか土が喜んでる気がするし、雨のあとのアスファルトの匂いも好きとか言ってた」
「。。。。」
「覚えてるよ、Aのこと。なんでもよく覚えてる」
どうしてそんなこと言うの。
「ど、どうせ変な女だからでしょ」
「そうかもな笑。。。あ、ここで降ります」
可愛い気のない言葉とは裏腹にみるみる赤く染まる顔を見られまいと、必死に下を向く。
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作者名:しろ | 作成日時:2022年10月7日 22時