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人の少ない廊下を通って、ホテルである一室に入り、ベッドに座るよう下ろされる。
後から小瀧さんが箱を持ってきてくれて、
私に渡すより先に彼に渡した。
赤く腫れた方の足のヒールを脱がせて、冷たい湿布が貼られる。
「…ねぇっ、自分で出来るから」
『うるさい、足閉じとかんと見える』
「っばか…！」
『ほんま鈍臭いな。これじゃ、しばらく動けへんやろ』
「ごめん、なさいっ…。でも、仕事はちゃんとするから」
『無理して悪化されても困る』
湿布の上から包帯を器用に巻いて、また助けられてしまった…
「…ありがとう。もう、大丈夫だから」
まだ痛みはあるけど、歩けるとは思う。
「私のことはいいから、会長の所に行ってきて？挨拶してくるんでしょ」
『小瀧が行ったからええ。それより、ぶつかった相手見てへんのか？』
「うん…。それより先に足の方が痛かったから」
『はぁ…この世界はな、常に警戒しとらんと誰に狙われとるか予想がつかへんねん。いくら、身内の会食とはいえ、誰かと居れって言うたやろ』
「ごめん…だけど、もう迷惑かけないようにするから」
『今日はそれだけで済んだけど、もし何かあっても同じこと言えるんか？』
いつもとは違う真剣な目に、返す言葉が見つからなかった。
本気で私を心配してるように見えて、心がチクチクする…
「…私に何かあっても関係ないでしょ」
どうせ、私はただの、
『ほんまええ加減にせえよ』
押し倒された体。
目の前に映る彼の怒った顔。
「ちょっと、離してっ……」
顔の横で掴まれた腕は簡単に離れなくて。
『ここからも逃げられへんくせに』
近づいた顔に目を閉じれば、重なった唇。
「…んっ、ぁ………、」
バタバタ動いてみても、強い力に抑えられてちゃ、逃げたくても逃げられなくて。
角度を変え、舌が絡んだ唇が離れれば、銀の糸が二人を繋ぐ…
パンっ─────────
「…最低っ………」
部屋に響く乾いた音と、涙で揺らぐ彼の顔。
私から離れた彼が部屋を出て行き、一人になった私はただ泣くことしかできなくて。
まだ残る彼の香りが、昔と今を壊していった…
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作者名：シャータナ | 作成日時：2020年11月12日 2時
