飛蝶 - 最愛の人 - (ページ25)

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長い廊下を歩いて、小瀧さんの部屋の前。

ノックをしようと手を伸ばせば、勢いよくドアが開いて。

小『わっ！びっくりさせんといてやって、Aちゃんか』

「すいません、ノックしようと思って…」

小『俺もちょうど部屋行こう思ってたから。
ごめんな、怖い思いさて…』

「いえっ、小瀧さんのせいでは…」

小『濵ちゃんに死ぬほど怒られたわ。計画が甘いって』

よく見ると、小瀧さんの口元には赤い痣がある…

「もしかして、それっ…」

小『あ、これはあの男に隙つかれただけ。濵ちゃんは仲間を傷付けたりせーへんよ』

彼があの人に熱い信用を抱いているのが、少しだけわかった気がする…

さっきも、私を見捨てず助けてくれた。

私はただ雇われてるだけなのに…

「ありがとう」も言わなかった。

言えばきっと、あの人を見る目が変わってしまう気がして…

小『誰もAちゃんのことは、傷付けさせへん。もし、そうしようとしとる奴がおったら俺らが守る』

大勢の人から倦厭され、誰も寄り付こうとない世界で生きる人たちは、そんな状況にいるからこそ、仲間を大切にする。

人を思う気持ちは誰よりも強く、裏切った時の償いも大きい。

今まで私には、そう思える人が居なかったから、優しい言葉をかけられるたびに疑ってしまう…

また、これも信用させるための嘘だって。

いずれ私は、あなた達を裏切るかもしれない…

小『…Aちゃん？』

だから、小瀧さんの真っ直ぐな視線を逸らしてしまう…

「…すいません、ぼーっとしちゃって。
本当に今日はありがとうございました」

小『うん、ゆっくり休んで…？』

「…はい、おやすみなさい」

部屋に戻る私を、どこかまだ心配そうに見つめる小瀧さん…

優しくされたい、人の温もりが欲しいって思ってたけど。

私には、そんな資格ないんだ。

きっと……