水色のカルテ

押し寄せる甘いもの ページ15

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その晩は。

普段の寝付きの良さが嘘みたいに目が冴えていて。



脳裏に浮かぶﾁｬﾝﾐﾝさんを追い払うべく
関係のない事ばかりを考えた。




今日、仕事の後にデパートで靴を買った。


ベージュでシンプルではあるけれど。
私が持っているものに比べてヒールがある靴。



2週間前。

ﾁｬﾝﾐﾝさんとの外出では
結局、靴擦れが悪化してしまった。



ﾁｬﾝﾐﾝさんは「全然気付かなかった」と言って
私の踵に絆創膏を貼ってくれ。

「気が利かなくてすみません」と
叱られた子供のように肩を落とした。



…そんな。


優しいんだ。

その時、彼の優しさに私こそ恐縮した。





そういえば、前に本で読んだっけ。



"見た目が美しい人は性格が悪いと思われがちだけど
むしろ逆である事も多い"



他人をひがむ感情が少ないから
それだけ優しさを持っている、と。





　「あぁ………まただ。」

　


自分の脳が、すぐにﾁｬﾝﾐﾝさんの記憶を呼び起こして。


さっきからそれの繰り返し。

　



*


*





それから、3週間。


月曜と水曜を担当しているﾁｬﾝﾐﾝさんとは
その曜日に、ほぼ必ず顔を合わせた。



あの……怒らせた直後は不安だったけど
ﾁｬﾝﾐﾝさんは何も変わらない態度で。



昼休みに遊びに来ては、私をいじって帰っていく。



いじられる隙がないようにしていても
どこかしら、ﾁｬﾝﾐﾝさんの目に止まってしまうから。
　





CM「あれ、今日ヒールですか？」

　「はい、この前買ってみました。どうでしょう？」

CM「あー地味ですね(笑)でも……」





…？



そこで言葉を区切ると。

ﾁｬﾝﾐﾝさんは自分自身に苦笑するように眉を寄せた。






CM「最近、高いヒールの女性を見ると心配になるんです。
あの日みたいに、またAさんが靴擦れしてるんじゃないかって(笑)」


　「…………」






その……

ﾁｬﾝﾐﾝさんの口から出た言葉に
私は一瞬で、首まで熱を帯びていく。



だって、嬉しくて。



大きな意味はなくても
そこで私を思い浮かべてくれる、という事実が。




そういった感情を、これまで多く味わってこなかったから。

そんな些細な事に甘い気持ちになってしまう。





　「…嬉しいです。」


CM「嬉しい？ちゃんと気を付けてくださいよ。

あー…早えな。もう昼休み終わりか。」






そして。



カウンセリングルームに戻る彼を

私はいつしか、名残惜しく目で追うようになっていた。

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