06. 月だって泣きたくなるよ ページ6
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「 や、………」
やぶ、と呼ぼうと見た隣でどことなく頼りなげでそれでいて寂しそうな横顔に思わず息を飲んだ。
…そうだ。もう、あの時期か。
本来ならこの俺が、薮の隣なんていちゃいけない。
だけど無力だから。臆病だから。
『 いのちゃんを、守って………』
薮は俺の側にいることで理性を保ってるから。
もう守ってくれなくていい。きっとそんなことを言った日には捨てられたとまた……壊れてしまう。
学生時代、東京ではなくもっと田舎にいた俺たち。
2人ではなくて3人だった。
夏が来ると思い出す。
熱帯魚がゆらり、揺れて視界を遮ってしまうように記憶は断片的だけど。
彼を忘れない。
忘れられない。
忘れては、いけない。
俺は罪人だ。赦しを請うことも許されてはいけない。
誰かに縋って生きてもいいかと聞かなければ、生きていけない。そんな弱い人間だ。
罪と罰があるとして、罪を犯した人間の友人が代わりに罰を受けたら?
『 いのちゃん……だいじょうぶ。だいじょうぶだから。』
罰を逃れた罪人はどんな顔をして生きていけばいい?
『 真っ直ぐ、走るんだ。振り返っちゃ行けない 』
あの日のままで時間が止まってる。
息もできないような、瞬きすら惜しんで、走ったあの夏。あの山道。
遠ざかる涙と叫び声。
『 逃げて…いのちゃん 』
怖くて怖くて、普段なら動けるわけないその状況で。君に押された背中が強く、俺の足を走らせた。
「 っ………ぉ!」
逃げた。俺は彼を置いて逃げたんだ。
自分だけ助かった。
どうして君を置いていったんだろう。どうしてあのとき君の手を取らなかったんだろう。
俺が、死ねばよかったんだ。
君じゃなくて俺が死ねば、薮は、今頃……っ
宏太「 …っいのおっ!しっかりしろっ!」
ハッ、と息を飲めば叫ぶ薮がいて。
見渡せばいつもの個室の和食屋にいた。
肩で息をする。吸っても、吸っても、耳がキーンとして頭が痛くて。
まるで生きるなと首を絞められているみたいだ。
宏太「 …とりあえず、深呼吸しろ 」
「 っは、……っあ 」
ふう、ふう、と息を吸って吐いてを繰り返しようやく自分が生きていることに気づく。
「 や、ぶ………おれっ……っおれ、はっ!」
俺は、恋なんてしちゃいけない。
愚かな俺は誰にも愛されてはいけなかった。
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伊野尾様love.@七星 - こんなに素敵なBLがあっていいものでしょうか…泣。なんなら私、見出し?というか目次で泣いてましたから←。神楽様の語彙力が凄まじいからです…!私もこんな小説がかけるようになりたいな…とつくづく思いました。ありがとうございました!! (2019年12月26日 3時) (レス) id: e41447f8a9 (このIDを非表示/違反報告)
りぃ(プロフ) - 神楽さん» これからも楽しみにしています。更新頑張ってください! (2018年5月1日 0時) (レス) id: 8fb5d7b3b8 (このIDを非表示/違反報告)
神楽(プロフ) - りぃさん» ご指摘有難うございます。先程の更新で変更させていただきました。これからも神楽共々「雨宿り〜」を宜しくお願い致します。 (2018年5月1日 0時) (レス) id: 5c1877f0f8 (このIDを非表示/違反報告)
神楽(プロフ) - ここみさん» ゆといのはほんとに素晴らしくて神楽も大好きなカップリングの1つなので是非楽しんでくださいね。そしてゆといのを書かれてる素敵作者様たっくさんおられるのでそちらにも是非! (2018年5月1日 0時) (レス) id: 5c1877f0f8 (このIDを非表示/違反報告)
りぃ(プロフ) - 神楽さん、初めまして。神楽さんの色々な作品をいつも楽しませて頂いております。17ページで気になるところがあるのですが、「喫煙」ではなく、「禁煙」ではないでしょうか…?喫煙でしたら煙草を吸うという意味になってしまいます…!私の勘違いでしたらごめんなさい! (2018年4月30日 20時) (レス) id: 8fb5d7b3b8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神楽 | 作成日時:2018年4月1日 15時