05. 湿った煙草 ページ5
yb side
「 お前今晩暇だろ?ちょっと付き合えよ 」
定時上がり、1人で帰らすのもなあ…ということで晩飯を相席させることにした。
いつもの如く周りから「薮さんばっかりずるいっすよー」と野次が飛んでくる。
「 伊野尾を誘いたきゃ定時までに仕事キッチリ終わらせるんだな 」
手をヒラヒラさせるとまた野次。
というよりは、もうため息混じりの愚痴だな。
「 おい、行くぞ 」
行き道いつも通り沢山の視線に怯える、隣の肩。
まあこれだけ不躾な目で見られちゃあなあ…
それに今日こいつはユートとやらを想ってやたら色気を出してやがる。
チッ、餓鬼のくせに。
歩幅が小さくてフラフラしてるから心配で「危ねえから俺の服の袖掴んどけ」って言えば素直に袖を引く。
自分で言っといて何だが少し照れ臭い。
「 ふっ…赤ん坊みてえだな 」
薄く微笑いかけると俺のシャツを、ぎゅっと強く握り直す伊野尾は先程俺が言ったように赤ん坊みてえだが……
「 ごめんね、やぶ 」
潤んだ目とぽってりとした唇、極め付けは火照った頬。
人気の多い所を歩いていたせいだろうけどあまりにも無防備なこいつは、昔から俺を困らせるのが本当に上手い。
「 堂々とすりゃいいんだよ 」
嬉しそうにはにかむ、こいつは昔からほんと……変わってなくて虫唾が走る。
慧「 ありがとう、やぶ 」
目が眩む。笑うと八重歯がちろりと出て、舌ったらずに俺の名をいつも叫んでた。
アレと、こいつは似ても似つかねえのに。
なんでだろうな。重なって見えて仕様がない。
「 …あっちいな 」
夏祭り。藍色の浴衣。
嬉しそうに俺が買ったわたあめを持って、笑う。
砂糖の塊だといえば華奢な拳で肩を小突かれた。
俺の記憶の中。あいつはいつも、笑ってた。
だから、余計、戸惑った。
慧「 半袖のシャツどこに収めたっけな…」
「 アイロンで火傷するなよ 」
慧「 しない!今年は絶対しないもん!」
涙が流れた。
いつも細まってた目から。
やぶ、って呼ぶ唇を噛み締めて。
自分の気持ちを必至に押し殺して、泣きながら、笑ってた。
『 やぶ……いのちゃんを… 』
学生のくせにタバコを吸うなと、よく怒ってたな。
『 いのちゃんを、守って… 』
最後のキスでこぼれた、吐息は光の甘さにはなくただ煙草の苦味だけがあった。
無条件であいつを思い出す。夏は嫌いだ。
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伊野尾様love.@七星 - こんなに素敵なBLがあっていいものでしょうか…泣。なんなら私、見出し?というか目次で泣いてましたから←。神楽様の語彙力が凄まじいからです…!私もこんな小説がかけるようになりたいな…とつくづく思いました。ありがとうございました!! (2019年12月26日 3時) (レス) id: e41447f8a9 (このIDを非表示/違反報告)
りぃ(プロフ) - 神楽さん» これからも楽しみにしています。更新頑張ってください! (2018年5月1日 0時) (レス) id: 8fb5d7b3b8 (このIDを非表示/違反報告)
神楽(プロフ) - りぃさん» ご指摘有難うございます。先程の更新で変更させていただきました。これからも神楽共々「雨宿り〜」を宜しくお願い致します。 (2018年5月1日 0時) (レス) id: 5c1877f0f8 (このIDを非表示/違反報告)
神楽(プロフ) - ここみさん» ゆといのはほんとに素晴らしくて神楽も大好きなカップリングの1つなので是非楽しんでくださいね。そしてゆといのを書かれてる素敵作者様たっくさんおられるのでそちらにも是非! (2018年5月1日 0時) (レス) id: 5c1877f0f8 (このIDを非表示/違反報告)
りぃ(プロフ) - 神楽さん、初めまして。神楽さんの色々な作品をいつも楽しませて頂いております。17ページで気になるところがあるのですが、「喫煙」ではなく、「禁煙」ではないでしょうか…?喫煙でしたら煙草を吸うという意味になってしまいます…!私の勘違いでしたらごめんなさい! (2018年4月30日 20時) (レス) id: 8fb5d7b3b8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:神楽 | 作成日時:2018年4月1日 15時