雨宿りするなら君の胸の中で。 ytin

39. 王様も風邪になる ページ39

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行ってらっしゃい、と慧さんに送り出され俺はスーツカタログの撮影へ。
東洋人を採用するのは初めてのヨーロッパブランドらしく、現場にも緊張が走る。





雄也「 ケータリングがサラダじゃなかった…」







雄也さんに限っては通常運転だけど。






「 もー！俺の緊張感返して！」


雄也「 あ？こちとらダイエットしてっから死活問題なんだよ 」





実は先日、元いたプロダクションから移籍し、涼介が所属するところへ入った。
まあその社長さんは俺の元いたプロのお兄さんだし、マネは雄也さんになったしであんまり変化はない。







「 あれ？今日ってやまも一緒じゃなかったの？」


雄也「 王様なら疲労で急遽休みだ 」



「 は？！」








雄也「 病院で点滴打ってる…なんならあのクソガキ具合も治してもらえばいいのにな 」


「 ちょ、笑い事じゃないからね！？…まさかあのやまが仕事に穴開けるなんて…」






俺が知ってる年間でも、彼が仕事を休んだと言う話は聞いたことがなかったし、そもそも彼は大の仕事人間。

『撮られながら死にたい』と言っていたくらいこの仕事が好きなことをよく知ってる。






だからこそ、ほんとに緊急事態なんだと察した。







「 じゃあ俺、この撮影上がったらオフだからお見舞いに行くね 」


雄也「 感染されやがったらブッ殺す。ただでさえ涼介で大ダメージなのにお前まだなったらうちは赤字だかんね 」








物騒なことを言いながら、生ハムを頬張る、何のも言えない雄也さんに苦笑いしながらネクタイピンを指で弾いた。

彼のいない現場は久しくて、少し居心地が悪い。









口の悪い王様だけど、涼介はいつだってプロだった。
どれだけ誹謗中傷を受けようとも、どんな綺麗な人からハニートラップを仕掛けられようとも揺るがない。

それは、自分の価値を、自分がどれだけの人に支えられているかをしっかりとわきまえているから。
格別のプロ意識を誇っていた。


自分という商品を、誰より大切にしていた。








思えば、学生時代から彼のプロ意識は高かった。
育ち盛りでガッツリ食べたいはずなのに、大事な撮影がある1週間前くらいには食事は水だけ。
ご褒美は二日に一回、一粒のチョコレート。








辛くないの？と問うたことがある。
そしたら彼は嘲るように鼻で笑いながら言ったんだ。






『 格の違いを見せつけるのほど愉しいもんはねえよ』






彼は、努力の人なのだ。

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