雨宿りするなら君の胸の中で。 ytin

27. 諦めません ページ27

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小さく寝息を立てる彼。
いつもは大人っぽいけれど、寝顔は年相応だ。





ズキズキ痛む腰を支えながら、ブランケットを羽織ってキッチンへ。
お目当てのミネラルウォーターを手に取り「いただきます」と口にしてから飲んだ。





普段なら勝手に人の家のものを飲むなんてこと、絶対にしない。
だけど…言われたから。彼に。






行為前、裕翔くんが俺の頬を撫でながら囁いた。







裕翔『 慧さんはもう、俺の恋人なんですからね。俺のものは全てあなたのものだと思って使ってください。この家もね 』







動くと痛む腰。
痛くして、と言った自分。優しくできない、と言った彼。それでも彼はやっぱり、優しかった。



壊れ物のように腰に手を添えて、動くたびに俺の顔色を伺って、少しでも俺の目に不安が映ると手を握って指を絡め、大丈夫とキスをしてくれた。

幸せだった。全てに色がつき花が咲くような。
柔らかな時間だったといえる。








彼を好きだ。優しくて真面目なのに子供らしい無邪気なとこもある裕翔くんのこと、大好き。

だけど心の中でブレーキが掛かる。







幸せになっちゃいけない。
アイツを置いて、大人になれない。








愛おしい。触れたい。幸せに、なりたい…だけど。
俺はひかるを捨てられない。また置いてくことなんてできないから。









咄嗟にその場にしゃがみ込んで、口元を覆い、声を殺しながら泣いた。

まだ彼の匂いのする自分に酷く安心感を覚えながら。申し訳なさと愛おしさを馳せながら。









君と、一緒になれたならどれだけいいだろう。









裕翔「 …けい、さん？」








涙で滲んだ赤い目を、彼に向けた。
刹那、引き寄せられるように彼の胸の中へ飛び込む。






一人でいたらまたあの小屋を思い出す。

夏の蒸し暑さ、雨上がりの匂い、
全てが鮮明に思い出されて、涙が止まらない。









「 …きおくが…きえ、ない 」



記憶に縛られ続ける。それが、ひかるを忘れないことに繋がって、そして償いになると思ってた。








裕翔「 ……あなたが泣いてるとき、ひかるさんも泣いてるよ。」









でも君に抱きしめられると、幸せを感じると、ひかるの顔を思い出す。


振り返るな、と。幸せになれ、と言ったあの笑顔を。






裕翔「 俺、諦めません。あなたを幸せにすること 」








ねえ、ひかる。
俺はどうしたらいい？

彼と幸せになって、お前は泣かない？

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