【文スト】首領、１３歳になります。【森鴎外】

第六話　マスカレイド ページ8

――無我夢中で廊下を走る。

昨日、一人仕留めた後に残りの三人を仕留めに行ったが
最後の一人を探すことに手間取り、二日が経ってしまった。


――こんなにどんくさいと、愛されない。
――せめて、報告だけでも迅速に済ませなければ。


恐怖と不安に駆られながら走っていると、扉が見えた。
迷うことなくその扉を開き、その隙間に体をねじ込む。


「首領……！」


呼ぶと、此方を振り向く首領。
肩で息をしながら報告書を渡す。

それを受け取った首領は、今の私の状態を見兼ねたのか、
背中を撫でて深呼吸を促す。

ある程度、呼吸が整ったところで漸く会話が始まる。


「……落ち着いたかね？」
「……はい」


頷くと、よろしいと云って自分の席に戻って行き
パラパラと報告書を捲る。


「……どうですか？」
「うん……中々に上々だね。
　それにしても、Aちゃんらしくない。
　今回は“長かった”ね」


――長かったね。


云うまでもなく、その言葉の前に来る単語は“時間”だ。


――らしくない。


失望されただろうか、愛されなくなるのだろうか。
力不足だろうか、見捨てないで――

たった一言、されど一言。
何気なく云っただけかもしれない。けれども――

私には、首に絡まる縄にしか思えなかった。


「ご、ごめんなさい…………埋め合わせはします、から。
　だから、次の仕事を」
「無いよ」


ください、と言おうとしたが、
首領の言葉にえっ、という言葉が出た。


　


(鶴姫悪朽恋物語(つるひめわるきゅうれものがたり))

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