【文スト】首領、１３歳になります。【森鴎外】

第四十二話　利己主義 ページ44

「君の臣下と乙女という二面性に。
　君は板挟みにされているんだ」


……そうか、私は労いを愛されるに置き換えて、
乙女心を隠して、臣下の“道化”を演じているのだ。

痛快、笑止千万片腹痛い。

――守ってきた“部下の姿”が、“今(これ)”か。


「……こんなに、浅ましいなんて、ますます、嫌われてしまいますね」
「それは違うんじゃないかなぁ」


気を緩めれば、今にも笑い出してしまいそうだったのに。
予想外の一言に肩が揺れる。


「あの、それは、どういう――」
「さ、お喋りは此処までにしよう。
　もうすぐ捌けさせた皆が帰ってきちゃうからねえ」


薄暗い雰囲気はどこへやら。

パッと表情を変え、にこにこと善意の塊のように笑った彼に腕を引かれ
玄関の前まで案内される。

前にも、こんな会話があったような。

ぼんやりしている間にもどんどんと足は進み、外へ出される。


「……最後に一つだけ」


中途半端に終わった会話に不満を持ちつつも帰ろうとすれば、後ろから声がかかる。


「“本当に愛しているのなら、君は愛されなくなる”」
「――――――ッは」


今までため込んでいた感情が一つの乾いた笑いとなって現れた。


――知れたこと。


　


(乱恋湛白事(したしこいきみしらず))

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