【文スト】首領、１３歳になります。【森鴎外】

第四十一話　恋に落ちる ページ43

そこからはもう御存じだろう。

毒への耐性をつけるための訓練により己の才能に気付き。
予想通り暗殺業を任され首領のために刃を揮う等々……。

それらがあって、今に至る。


――パチ、パチ、パチ……。


「成程ねえ」


話し終えると同時に拍手の音がする。
音を響かせた彼は一つ静かに頷く。


「Aちゃんは分からなくなっているんだろう？」
「分からなく？」


一体何にと言うのだ。


「あの人への奉公心と、恋心で乱れているのだろう？」


何が。


「貴方のために、貴方のためにと口で語っていても
　貴方に、愛されるためにと行動してしまう……。
　自分が己のためになのか、あの人のために動くのかが、
　分からなくなっているのだろう？」
「そんなッ、こ……と」


――本当に、無いと言える？


首領より勝るものは無いから、わが身を優先してはいないと。


――本当に、無いと言える？


首領が好きだ、愛されたい。
――所有物を“大切”にしない人はいない。

だから、そうされるように仕事を熟す。
――“首領のため”の仕事に、私情を持ち込んだのは、私？


「愛されることも、“そうさせる”ことも認めてはいる。
　でも、理解ができないのだろう？」


「分からないのだろう？」
そう、追い打ちをかける様に言葉を紡ぐ。


　



(故意に堕ちる)

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