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第三十七話 幕無 ページ39

――構え直した短刀を強く握る。
鴎外は再び懐からメスを取り出す。

その顔は、殺意を持っていて――


「…………え?」


一瞬、笑ったように見えた。

酷く、ひどく慈愛に満ちた顔。
聖母を彷彿とさせるように柔らかい表情。


「ッ!」


呆然としていて彼が襲ってきたことに気が付かなった。

一歩ずつ下がりながら彼が振るうメスを受け流す。

それは、反撃する暇がないほど無駄(すき)がない早業。
受けきることで精一杯だ。


――強い。


ただただ、その言葉が似合うと思うほどに。

何度目かの攻防を繰り返していると、とん、と壁に足が当たった。


「よそ見は感心しないねえ」


しまった、と思い確認するが最期。
後ろに気を取られ、前への集中が切れた。

そのまま、無抵抗の短刀はメスによって宙へ。
ガラン、と質量のある音を立てて遠い地面へ不時着した。


「あ、ぁ……」


得物もない、眼前には仇。
紛れもない、敗北。

自分に失望し、膝から崩れ落ちる。
ぐったりとした私の様子を彼はメスを持ちながら眺める。


――その時、不意に何かが手に当たった。


恐る恐るその形を探る。
薄い板の様な、それでいて冷たい金属――

そこまで確認するや否や“何か”で鴎外を切りつける。

――間違いない。
――鍔迫り合いの時のメスだ。

彼は咄嗟に後ろへ下がるが、服には切り込みが入った。


「……結構、気に入っていたのだけれどねえ」


大して困ってなさそうに破れた部位を摘む。
その余裕綽々な行動に腹が立つ。

睨みつけていると彼はメスを持ち、アンガルドの姿勢をとる。
彼は笑っていた。

しかし、その笑みは聖女でもなんでもなく。
不敵な笑みだった。

――だが、そんなことはどうでもいい。
相手の得物など、払い落としてやろう。

そう思い立ち、地を蹴り飛び上がり一回転。
両の手で柄を握り、突き刺そうとした矢先――


ぐい、と体が引っ張られた。


起こるはずがない出来事に、姿勢が崩れる。
何で、と困惑する間も無く眼前には構えられたメスが。

そうだ、彼は一歩も動いていない。
――では、“誰が”?

大量の情報を捌いている間にもメスは迫る。
恐怖から目を瞑る。

が、それが刺さること無く。
次の瞬間には私は地面にうつ伏せで打ちつけられていた。


 


(見えない(みかた))

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 森鴎外   
作品ジャンル:アニメ
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(プロフ) - 1でお願いします! 更新頑張ってください!!続き楽しみにしてます!! (2018年4月8日 21時) (レス) id: 7443137317 (このIDを非表示/違反報告)
臣民(プロフ) - みぃさん» 原作第五十話に続くような形で書かせて頂きました。二三回読める話をモットーとしておりますので、深く考えていただけたら嬉しい限りです。更新頑張ります! (2018年4月7日 11時) (レス) id: d39d595e1e (このIDを非表示/違反報告)
みぃ(プロフ) - 最後ので涙がブワッと…エリスちゃぁぁああん!! 更新楽しみにしています! (2018年4月5日 16時) (レス) id: d62fbb3902 (このIDを非表示/違反報告)
臣民(プロフ) - **楼椛**さん» いえいえ!応援有難う御座います。たっぷりお楽しみください! (2018年3月26日 20時) (レス) id: d39d595e1e (このIDを非表示/違反報告)
**楼椛** - 初コメ失礼します!今日初めて拝見させていただいたのですが、とても面白いです(ありきたりな言葉ですみません) 更新頑張ってください!これからも森さんを楽しみにしてます!←← (2018年3月26日 19時) (レス) id: e7e0abd8b6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:臣民 | 作成日時:2017年10月22日 9時

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