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W杯バレーが終われば、皆は所属するチームに戻ってまた試合をこなす。昴くんは相変わらずHCUのカーテンで作った簡易的な個室で治療中。私は大学があるので付きっきりではいられないから、ご両親と相談して誰か一人は付いているようにしている。
今日は外せない授業があったので大学に来ていた。大学の友達には私達の事は話していない。例え高校時代からの付き合いだとしても言えない事はあるから、授業が終わると「バイト遅れちゃう」と適当な嘘をついて直ぐに講堂を出た。
向かう先は昴くんが入院している病院。直ぐにでも会いたいから先を急ぐ。
「寺島さん!」
声を掛けられたのは校門を出たところだった。それはよく聴き慣れた声で、身長も周りより頭一つ抜けた人。
『柳田さん!』
「今から行くんですか?」
そう聞かれて答える前に一呼吸。この人、確か雑誌で【NEXT4】とか言われて特集されてたよね。高身長で顔も良いんだから周りが気にしない訳が無い。
頭の中は昴くんの事で一杯だけど、微かに耳に入ってきたのは「あの人バレーの…」「え、嘘マジで!?」という殆ど完全に顔バレしている台詞。意外にも冷静だった。
『場所、変えましょう…!』
体格に合った黒のリュックを背負ったジャージ姿はさっきまで練習だった証拠。二人で電車を乗り継いで病院に向かった。到着時間は面会時間ギリギリ。途中走ったりもして私は少し息を切らしていた。
「そんなに急いで来てくれたんだ。ありがとな、A。マサもサンキュ」
「いえ…寺島さん、本当に大丈夫?はい、お水。あ、俺は飲んでないから安心して!」
『…すみません、ありがとうございます』
受け取ったペットボトルは親切丁寧にキャップが緩められていた。
「ちょっとちょっと〜、俺というものが居るのに目の前で浮気かあ?」
『ぶっ、ち、違う違う!』
危うくお水吹いちゃうところだったじゃない!これは柳田さんの親切心だよ!私は変わらず昴くんが好きだもん。それを証拠に、私の左手は昴くんの右手に絡めとられている。柳田さんはそれを敢えて見ないようにしながらも今日あった事とかを話していた。話していたと言ってもそれは柳田さんからではなく昴くんの方からで、ここに来ても昴くんは会話をリードしてくれていた。
「ごめんなさい、そろそろ面会時間が…」
今日は来るのが遅かった。気付けばもうそんな時間になっていて、看護師さんが時間を知らせに来た。
「マサ」
その時、昴くんは柳田さんを呼んだ。
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作者名:しおん | 作成日時:2019年10月26日 6時