10両目 ページ10
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翌朝、バスの中からいつも見ていた風景をぐっと踏み込むペダルで進む。
まだそんなに暑くないせいか風が爽やかで
少し腫れぼったい目が冷やされてそれも気持ち良かった。
いつも乗っていた時刻よりもずいぶんと早い時間の電車
割と空いている車両に乗り込む
席に座れはしないけれど
不快になるほど人と引っ付かなくてもいいその車内
これが毎朝の風景になるんだ
そう考えるとまた目の奥が熱くなってくる
涙がこぼれないように音楽のボリュームを大きくした。
翌朝もホームで電車を待っている時、胸がドキドキする。
電車に乗り込む瞬間はつい二宮さんを探してしまう
いるわけないのに
毎朝、そこにいない人を探して
そんな自分がばかみたいで少し笑える。
きっと二宮さんは私の事なんか気にしていないだろう
『あの子最近見かけないな』くらいは思ってくれるかな
全然思い出しもしないかな
いつになったらこの寂しい、辛い気持ちに慣れるのかな
毎朝、毎朝繰り返し思った。
そんな私の気持ちとは裏腹に受験生は勉強、勉強で
でも、それでいいのかも
余計な事を考えないように勉強をした
今日も質問していたら遅くなっちゃたな
予備校を出て駅から電車に乗り込む
あの日、二宮さんをここで見かけて以来
もう会わないように改札口を変えて、車両も一番離れた所に乗る様にしていた。
あんな場面にまた出会ったら泣かないですむ自信が無かったから。
早く大学生になりたいなぁと思う
あの混んるけど嬉しくってキラキラしてた朝の電車も
哀しい思い出ができちゃったこの駅から乗る電車も
早く乗らなくてすむようになりたいなと思う。
英語の長文問題を読んでいるとあっという間に自分の降りる駅につく
ホームに降りてカバンから定期券を取り出す
ピッと改札口を通り抜けて
いつものように駐輪場へ向かった。
ピタリ
そこで足が止まった
そこにいるはずのない人
この駅は小さいから改札口が一つしか無くて
その改札口を出た所の壁にもたれてこちらの人の流れを見ている人がいた。
目があった途端微笑みながらこちらに来るその人。
………なんで
「久しぶりだね」
そう言って何もなかったように
いつもの朝の電車で会っていた時のように
唇の片方を少し上げて微笑む二宮さんがそこにいた。
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作者名：雪月
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=verbena
作成日時：2014年6月8日 0時
