陽の目にも涙【巴日和】 (ページ16)

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朝起きてみれば夥しい量の着信履歴に茨君からのヘルプの連絡。

「Aさん、今の殿下は自分の手には負えません」と一件の連絡に、なんともウチの旦那がすみませんという気持ちになる。

＿＿＿＿

「おひいさん、聞いてます？」

「Aちゃんのばかっ...」

おひいさんは茨と言い合い(一方的)をした後、Aさんに何回も電話をかけ、何回もメッセージを送信していた。

でも、その日は時間が時間でAさんからは一件も連絡が返ってこなかった。

だから朝からおひいさんはこんな調子で、テーブルの上に浅めの水溜まりを作っている。

こんなに沈んでいるおひいさんを見るのは初めてで、正直どう扱うべきか分かりかねる。

「おひいさん、お昼はキッシュ作ってやりますから元気出してくださいよぉ？」

「もう何もいらないね」

おひいさんの顔面は涙ぐしょぐしょで髪もボサボサでまるで世紀末といった感じ。

いつも太陽と形容される彼は、今は太陽ではなく影といったところか。

「そろそろ泣き止まないと明日に響きますよぉ」

「いざとなったらボイコットしてやるね」

「プロとしてどうなんすか」

机に突っ伏したまま一度も顔を上げずにいるし、いつもなら身だしなみについて細かいぐらい気をつけているのにAさんと一緒にいれなくなったらこうだ。

「もう生きていけないね」

「ほとぼりが冷めるまでって茨に言われたっすよねぇ」

「それっていつまで待てばいいの？」

「いつまでとまではわからないすよ」

俺がそう返すと黙りこくる。

仕方ない、ここはこの人の気持ちを汲んでやりますかぁ...。

俺はおひいさんには何も言わずにこっそりAさんに電話をかけた。

「もしもし漣です」

『おはよう。何かあったの？』

「いやぁ、おひいさんの英気を養おうと思ってかけたんすよ。ビデオ通話ってできますか？」

『日和君ね。大丈夫だよ』

俺はビデオ通話に切り替えて、おひいさんの前にスマホをを置いた。

「おひいさん、Aさんすよぉ」

『日和くーん』

机に突っ伏していたおひいさんはAさんの声が聞こえた瞬間勢いよく顔をあげて、スマホの画面に齧り付く。

「Aちゃんっ！！」

『おはよう、今日はお仕事休みだったっけ』

「そんなことはどうでもいいね！Aちゃん！Aちゃん！！家に帰ってなかったけどどこに泊まったの？！」

『ううん、秘密』

「迎えに行くから教えて欲しいね！」

『ううん、今はお互い我慢しよう』