Agapanthus (ページ46)

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｢"ヌナ、俺のこと好きなんでしょ？素直になればいいのに。"｣

ry｢"違う！誰があんたみたいな子どもと……！"｣

｢"俺、もう昔みたいに子どもじゃないよ。"｣

ry｢"……！"｣

｢"力だってこんなに強いし。もうかなわないでしょ？"｣

ry｢"やめ、て、！"｣

｢"無理だよ。好きな女を目の前に、我慢できるわけないじゃん。"｣

監｢カット！！！……っいいねぇ！！ここが山場だからね！最高！｣

興奮気味の監督の声を聞きながらリヨンさんから離れる。

ベッドに横たわったままメイク直しをされているリヨンさんを眺めながら僕もその場で髪のセット直しをされる。

僕とは性格が真反対の男の役はちょっと面白い。

好きな女を目の前に我慢できるわけないじゃん、なんてセリフ、ドラマじゃないと寒い。

普段言わないような言葉を言えるのが楽しいなってただぼんやりと思っていた。

ry｢監督。今のシーンもう一度お願いします。｣

監｢えぇ？いいよこれで、満足だよ！ワタシ。｣

ry｢……私、納得できなくて。｣

監｢リヨンちゃんいい感じだったよ？｣

ry｢私じゃなくて……。｣

視線が僕に向けられる。

え。

僕？

｢……僕、何処が悪かったですか？｣

こんな風に指摘をされるのは初めてだ。

そもそも僕はこの世界が長くて気遣われる上に、僕やその後ろの事務所や色んなところに気遣われて演技指導や他の共演者からの意見なんて貰ったことがない。

初めての経験に胸がバクバクする。

監｢い、いやぁ、リヨンちゃん、｣

｢リヨンヌナ。｣

ry｢……。｣

｢何処が悪かったですか？｣

周りの空気は凍ってる。

ピリピリとしてるけど、今はどうでも良くて。

彼女の目に何が映ってるのか気になった。

ry｢私より、可愛げがある。｣

｢可愛げ？｣

ry｢ジホは確かに見た目も愛くるしいキャラクターだけれど、私……イェナの前ではもっと本能的であって欲しいの。｣

｢……本能。｣

なるほど。

少しだけ愛くるしさを残したつもりだったけど、リヨンさんはもっとガツガツしたのを求めてたのか。

監督の言う通りここが山場。

｢僕は少しだけ愛くるしさを残したつもりだったんです。｣

ry｢それもいいと思った。だけど、この場面以降はジホのずっと秘めてた思いをどんどんぶつけてくるようになるの。ここでガツンといってみたい。｣

｢……分かりました。｣

この日初めて、ドラマ撮影中リヨンさんとまともに話すことができたと思う。