検索窓
今日:56 hit、昨日:89 hit、合計:925,342 hit

夏の日 ページ6

「……なんてね、冗談だよ」
「……」

俯いて、暗い顔をする新一。
……どうして新一が、そんな顔するの。

「今言ったこと、気にしないでね」
「そんなの……」
「ただね、この前読んだ本のヒロインが言ってたセリフ、私も言ってみたくなっだけだから」
「本……?」
「そう。別に、私が思ってるわけじゃないからね」
「……」

きっと、頭のいい新一なら、今の言葉こそ嘘だってこと、わかるだろうけど。
目を合わせて笑えば、あなたは信じてくれるでしょう。

「……ごめん、今日は帰ってくれる?」

すっかり黙った新一の背中を押して、無理やり外に出す。

家を出るとき、新一が言った。

「俺、おまえのこと、蘭の変わりなんて思ったことないよ」

「……また明日ね」
つうっと、額から顎にかけて、汗が流れた。

これが、私たちの間に入った、最初の亀裂。


自分の部屋に戻って、机に置かれた二つのグラスを眺める。

すっかり炭酸のぬけたサイダーを飲むと、なんだか泣きそうになった。

……嫌われた。
めんどくさい女だって、思われた。

そう考えたら、ぐうっと涙がこみ上げてきて、どさっと、膝から崩れ落ちた。

汗のかいたグラスを握りしめる。
とめどなく流れる涙は止められなくて、ポタポタと、水色のフローリングマットにシミを作っていく。

「……ふ、うぇぇ……」

口から情けない嗚咽がこぼれた。
また、新一が離れていっちゃう。

やだ。いかないで。
か細い声を出す。

怖いよ。
ひとりになるのが、こわい。

どうしてなの?
どうして新一は、私を見てくれないの。
どうすればいいの。

もう、何もわからない。

「新一……」

涙声で呼んだ名前は、あなたに届かない。

空から、飛行機の飛ぶ音が聞こえた。

ミンミンミーン。蝉の鳴き声。
外を駆け巡る、子供の笑い声。
どこかから聞こえる、風鈴の音。

窓から見える入道雲。
清々しいほどの蒼天の空。
握るグラスから滴り落ちる水滴。
ふわりと感じる、夏の気配。

瞳から流れて頬を伝う、私の涙。

大切なものを失った。
虚無感に、胸が締め付けられる。

なんだ。
やっぱり私、新一のこと、好きだった。
兄妹愛なんかじゃなくて。
一人の男の子として、大好きだった。

はは、っと、乾いた笑いが出た。
今さらそんなことに気づいて、何になるっていうの。


きっと私は、この夏の日のことを、一生忘れない。
私が、夏を嫌いになった日。

世界でいちばん大好きだった人を、傷つけた日。

泣く→←隠し事



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (372 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
955人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

極・吹雪姫 - ちょっとびっくりしたのが、弟の瑞紀(みずき)と私の「ミズキ」が被ったことだわね。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
極・吹雪姫 - ごめんなさい、本当に途中で泣きそうになったわ。「泣く」ですわ。泣いたページ。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - こいつらまだ小学生だった…!なんつー濃い恋愛を…!この小説すごく好きです!遥樹くんのちょっとした嫉妬がこぼれて、それを見てとても切なくなる。ヒロインの気持ちはよく理解できるけど、やっぱり遥樹くんがいちばん好きです! (2019年3月11日 10時) (レス) id: 7ac5223945 (このIDを非表示/違反報告)
松野かほ(プロフ) - 遥樹くんの読み方を今初めて知った← (2019年2月13日 15時) (レス) id: 45fd1e6358 (このIDを非表示/違反報告)
みお - この小説好きです!正直言うと新一より遥樹くんの方が好きだったのでくっついて欲しかったなぁって思ってます() (2018年6月8日 19時) (レス) id: 0646f7c2e0 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:みやの | 作成日時:2018年3月1日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。