第33話 心配だから ページ35
「A。食欲が湧かないのですか?」
「一時的なものですから、姫様が心配される事はありませんよ。大丈夫です」
「Aの『大丈夫』は信頼できません」
リムル様は、イングラシア王国に住む生徒達のもとへ戻られたのだろう。
だが、今日の姫様の予定は服作りのはず。そして、シオンも魔都内の警護だったと記憶している。
「二人共、お仕事は?」
「秘書の仕事は他の者に任せました」
「私は、午後から工房を休みにしました」
仕事より一個人を心配する理由が、本気で理解できなかった。
「なぜですか?」
この問いに二人は軽く苛ついた顔を見せ、間に挟まれる形で抱き締められ、異口同音に告げられる。
『貴女が心配だからに決まっているでしょう?』
さも当然という態度で言われた上に、さらに力をこめられ、なぜか懐かしく思い、ずっと昔に聞かされた物語を思い出す。
(ツムギは、しっかり者ね)
(長女として当然ですよ。母上)
ツムギさんが十の時、家庭内の諸事情で母上の心労が重なり、床に就いていた。
(でも、しっかりし過ぎるのもいけないわ。私は、まだ幼い貴女の事が心配なのよ)
そう言って、頭から頬にかけて優しく撫でてくれたのも、その後に発した母上の言葉も鮮明に憶えている。
「貴女と私で、護衛が成り立つんですよ。だから、一人欠けてしまっては困ります」
「ごめんなさい。シオン」
「Aが弱音を言わないのは、昔からの付き合いで判ります。でも、そんなあなたが大切だからこそ、無理をして欲しくないんですよ?」
「申し訳ありません。姫様」
二人が癒してくれるだけで、先祖の縁をほんの少しの時間でも忘れられた。
そして、リムル様が大規模の祭りを開催される時期は判らないが、せめて、それまでは自分の体調が悪化しない事をただ
居間で姫様と緑茶をすすりながら談笑していると、花摘みから戻ってきたシオンの眉間の
「A。まだ私達に隠してる事がありますよね!? 換気されていたとはいえ、洗面所が吐瀉物の臭いで充満してました!」
シオンが手を打つ前に、潔く自白した。
「あの男が話題に登るだけで、体調を崩して激しい吐き気と頭痛がするんだ。でも、里の頃から続いている症状だから、もう慣れたよ」
弱音も愚痴も吐かないが、己の身に起こった変えがたい事実だけは、徐々にこぼしていこうと決心した。
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竜胆(プロフ) - 200回の投票を頂き、ありがとうございます。 (2023年3月8日 19時) (レス) id: 2d2249a2d0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - お気に入りに入れて下さる方が、再び400人に到達! ありがとうございます。更新できるように頑張ります。 (2020年2月2日 21時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 瑠亜@影月さん» 瑠亜@影月さん、コメントと応援ありがとうございます。心変わりしてしまうほどとは(笑)もう話が一杯になったので、ただいま続編に向けて考案中です。更新できるよう頑張ります! (2019年5月13日 1時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
瑠亜@影月 - 私はソウエイが推しキャラだったんですが、若様に心変わりしてしまいそうです(笑)これも竜胆さんの文才の力ですね!これからも更新頑張ってください! (2019年5月12日 21時) (レス) id: 9b9cc1c6b7 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 紫癸さん» 紫癸さん、コメントと応援ありがとうございます。お褒めの言葉も重ねて感謝します。ただいまコミック版最新話の展開を待機している状態なので、もうしばらくお待ち下さい。必ず更新します。 (2019年4月11日 22時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竜胆 | 作成日時:2018年12月1日 1時