第２話 妹の護衛 ページ4
「おはようございます。お兄様」
「おはよう」
「おはようございます。若様」
「ああ」
毎食毒味をして、その有無を確かめたり、部屋で妹と話している時は、廊下で見張りの番をする。だから、邸宅で顔を毎日会わせていても、短い挨拶を交わすだけで、ちゃんとした会話をした機会は記憶にない。邸宅に住む世話人は、感情を表さない彼女を『
ある日、素朴な疑問をぶつけてみた。
「なぁ、親父。アイツ、笑ったりするのか？」
「アイツ？ 里にはたくさん人がいるんだ。誰だかはっきり言え」
「アイツは、アイツだ。
そこで、毒味のために三口だけの飯を胃に収め、部屋の隅にいる少女を、行儀は悪いが箸で指した。
「嗚呼。それは俺も知らんが、どうだ？ 笑うのか？」
この問いかけの先にいるのは、本人ではなく妹だった。当然、返答に困ってあわてている。そこで、視線が合った空色の髪を持つ彼女は、たいして考えもせずに淡々と答えた。
「大声をあげて笑った事はありませんが、微笑む程度なら何度か」
「よし！ なら、お前を笑わせよう。その役目は、言い出しっぺの息子が担当するから、覚悟するが良い！」
「お手柔らかにお願いいたします。若様」
「…は？」
突然の仕事の追加に、俺は箸から料理の一部がお椀にこぼれ落ちた事に気づかなかった。
「どうしたらいいんだ？」
「知らん」
一言で俺の悩みを切り捨てた褐色肌を持つ蒼鬼は、家臣で、数少ない幼馴染でもある。
「お前は見たか？」
「いや。従妹でも、俺の親は忍。彼女の親は忍ではなく、護衛の道を選んだ。だから、俺も会う機会は多くない」
「こうなったら、笑わせるまで剣術の
「あ」
蒼鬼が声をあげた時には、もう遅かった。
爺が、気配も足音も一切無く、日の傾きを計算し、決して悟られないよう、長い影を作って俺の背後に立っていたから。
「そのような口実は、稽古を
結局、『空鬼を笑わせる計画』を何も立てられずに、次期頭領としての教育続きで時間が過ぎ、やがて、記憶からも抜け落ちていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 486人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「転生したらスライムだった件」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
竜胆(プロフ) - 200回の投票を頂き、ありがとうございます。 (2023年3月8日 19時) (
レス) id: 2d2249a2d0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - お気に入りに入れて下さる方が、再び400人に到達！ ありがとうございます。更新できるように頑張ります。 (2020年2月2日 21時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 瑠亜@影月さん» 瑠亜@影月さん、コメントと応援ありがとうございます。心変わりしてしまうほどとは(笑)もう話が一杯になったので、ただいま続編に向けて考案中です。更新できるよう頑張ります！ (2019年5月13日 1時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
瑠亜@影月 - 私はソウエイが推しキャラだったんですが、若様に心変わりしてしまいそうです（笑）これも竜胆さんの文才の力ですね！これからも更新頑張ってください！ (2019年5月12日 21時) (レス) id: 9b9cc1c6b7 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 紫癸さん» 紫癸さん、コメントと応援ありがとうございます。お褒めの言葉も重ねて感謝します。ただいまコミック版最新話の展開を待機している状態なので、もうしばらくお待ち下さい。必ず更新します。 (2019年4月11日 22時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：竜胆 | 作成日時：2018年12月1日 1時
