第25話 義兄弟 ページ27
「呼び止めてすみません。あなたに、どうしても話したい事があるんです」
顔見知りの獣人・フォビオに背後から声をかけられたから、振り返って対面したは良いものの、相手は軽い息切れを起こしている。
「ええ。構いませんよ」
「あれから数ヵ月経ってしまったが、改めて謝罪したい。貴女の顔を傷つけてしまい、申し訳ありませんでした」
「ああ。その事でしたら、お気になさらず」
「ですが…っ!」
相当思い詰めたのだろう。
私服姿の彼が勢いよく顔を上げた拍子に、目尻に浮かんだ涙が
「フォビオ。あたしの言葉を信じてくれないか? たとえ傷物になっても、それは仲間を護った証になる。それで気がすまないなら、どうか、あたしの提案に乗ってくれ。そして、誰にでも感情があるから『泣くな』とまで言わないが、どうか笑っていて欲しい。貴方には笑顔が似合うからね」
ここで、自分の行動に後悔する。
相手の了承も得ずに、素肌に触れてしまったからだ。
「…ああ、わかった。いや。了解しました」
しかし、毎回、相手が顔を赤らめる現象が起こり、それを前にしているため、さすがに考える事を放棄した。
「今回は私用で来ているみたいだし、敬語も無しにしよう」
「ああ。だが、あなたの――」
「Aだ。私用の時は、そう呼んでほしい」
「お、おぅ…。…Aの提案は?」
「散策に付き合ってくれないかな?」
彼が乗った事で、『詫び』の条件は成立。気兼ねなく散策に繰り出した。
歩き回って疲れ、休憩がてら広場の隅にある長椅子に腰を降ろす。
「もしかして、誰かを捜してるのか? やたら落ち着きがなかったけど」
「弟を捜してる。血は繋がってないけどな」
「よかったら、特徴を教えてくれ。あたしも協力しよう。闇雲に捜すより、魔都なら土地勘がある」
「ありがとう。助かる。名前は、ノワール。俺と同じ黒豹で、50歳。外見だと5歳か。両脚が生まれつき欠損している」
「…なるほど。フォビオ。その子なら知ってる。だが、その表情を見るに、何か複雑な事情でもあるらしいな」
すると、黒髪を乱暴に掻いて、溜め息をつかれた。
「この国に使者として遣わされる前日。まだスライムを下等だと見下していた頃だよ。『同等と見るべきだ』と口論から殴り合いになって、結局、家出された」
彼の話を聞きながら、ノワールの行動力に納得する自分がいた。
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竜胆(プロフ) - 200回の投票を頂き、ありがとうございます。 (2023年3月8日 19時) (レス) id: 2d2249a2d0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - お気に入りに入れて下さる方が、再び400人に到達! ありがとうございます。更新できるように頑張ります。 (2020年2月2日 21時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 瑠亜@影月さん» 瑠亜@影月さん、コメントと応援ありがとうございます。心変わりしてしまうほどとは(笑)もう話が一杯になったので、ただいま続編に向けて考案中です。更新できるよう頑張ります! (2019年5月13日 1時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
瑠亜@影月 - 私はソウエイが推しキャラだったんですが、若様に心変わりしてしまいそうです(笑)これも竜胆さんの文才の力ですね!これからも更新頑張ってください! (2019年5月12日 21時) (レス) id: 9b9cc1c6b7 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 紫癸さん» 紫癸さん、コメントと応援ありがとうございます。お褒めの言葉も重ねて感謝します。ただいまコミック版最新話の展開を待機している状態なので、もうしばらくお待ち下さい。必ず更新します。 (2019年4月11日 22時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竜胆 | 作成日時:2018年12月1日 1時