叶わない恋 《ベニマル》

第15話　フォビオとヨウム ページ17

「派手にやりましたね。ミリム様」
「ああ。コイツが嘗めた真似をした上に、Aまで傷つけたのだから、当然の報いだ！」

　この会話の間に、リムル様が上空から駆けつけた。

「リグルド、A!! 大丈夫か!?」
「いやなに。この程度、どうという事もございません」
「慣れておりますので、お気になさらず」

　リグルド殿の左半分。あたしの右半分の顔面の怪我は、今は、ミリム様の拳で地面に倒れている黒豹の男の一撃が原因だ。皮は剥がれ、筋肉が露出し、べっとりと血濡れている。自分の場合は、男を前にして睨みつけただけで攻撃されたのだから、器の小ささが大衆の面前で実証されたわけだ。
　数ヵ月ぶりに殺気を向ける若様と兄貴を横目に見つつ、魔素で包まれた完全回復薬をリムル様から直接受け取り、話し合いの場を移す事になる。

「……で。君達は何をしに来たんだ？」
「スライム風情に答える義理はないね」

　初対面から思っていたが、こいつ殺したい。

　そう思っているのは皆同様だが、中でも若様の怒気が特にすごかった。

「魔王カリオンに伝えてくれ。『日を改めて連絡をくれれば、交渉に応じる』と」

　脳筋のフォビオが去った直後、怒りが収まらない様子のシオンに右頬を触られた。

「嫁入り前の顔に傷をつけるとは酷いです」
「それはシオンもでしょう？ フルポーションを飲んだから全く問題ないし、もう大丈夫だ。心配してくれて、ありがとう」

　護衛をシオンに任せて応接間を退室し、ハクロウに稽古をつけてもらった後、魔都在住の女性陣に護身術を教えて、充実した一日が終わった。


　それから程なく、ゴブタが人間の団体を用件を聞かぬまま、魔都に連れてきた。
　聞くところによると、３人の冒険者は主と面識があるらしく、今回は直属の上司・フューズも同行。また、荒くれ者の長・ヨウムは、強欲領主から低賃金で、オークロードの存在と魔都の調査に駆り出されたらしい。
　彼らは人間側の様々な情報を与えてくれたが、ヨウムの疑問点はスライムが喋る事だった。口が悪く、シオンとミリム様にそれぞれ一発殴られては昏倒する。

「口は災いの元ですね」
「本当の事を言っただけだろ、ちっぱい！」
「シオンと比べたら小さく見えるに決まってるだろ。これ以上殴られたくなかったら、その軽口を閉じて黙ってな」

　拳の代わりに、口頭で反論した。
　先日、風呂場での姫様の目測によると、『男性の手で、ちょうど収まる大きさ』らしい。

第16話　警告と作戦会議→←第14話　誘導尋問

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す