Dragon girl【ファンタビ】

エルンペントと求愛 ページ36

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黒に幾つか光を散らしただけの星空。静けさの中、建ち並ぶ民家の合間を縫って咆哮が響く。ニューヨークでは滅多に聞くことの無い獣の声だ。


暗く沈んだ屋外を覗いたティナとクイニーはふと───「獣」で騒ぎを起こしそうな客人達の所在が気にかかった。


彼らは大人しく寝ている。──本当に？


姉妹は慌ててベッドから腰を上げ、３人が寝ている筈の部屋に飛び込んだ。がらんとした部屋、冷めたココアのマグカップ、空っぽのベッド……まさか！


「彼女は寝かせた筈なのにどうやって……あぁもう信じられない！」


カンカンに激怒してグレーのコートをひっつかんだティナの背後で、クイニーが嘆く。


「ココア作ってあげたのに……」





◆◇◆






「──大丈夫、何にも心配することないからね」


「あのなあ……あんたにそう言われて、信じた奴いるのか？」


「どうせ苦しむなら心配するだけ無駄だ。僕の哲学だよ」


───つまりはだいじょばない、全く。


休む間も無く次のミッション。


頭にはヘルメット、胴には分厚いプロテクターを着け、蒼白になっているジェイコブを見てメラは苦笑する。半壊した動物園を目の前にこの装備だ、不安にもなるだろう。


「マスターったら、ちゃんと説明してあげれば良いのに。準備だけ先整えちゃうから無駄な心配が増えちゃうのよ。

前もって言ってあげれば良いじゃない。ゾウより２回りくらい大きいヤツが居るから体を守ろうって」


「そうかな……どうだいコワルスキーさん。少しは安心───してないみたいだけど」


知りたくなかったとばかりに首を横に振るジェイコブの顔色は更に氷点下に落ち込む。……別に安心させるために言った訳ではなかったのだけど。


「どうせ怖いことが待ってるなら「何が待ってるか」が大体分かった方が覚悟も決まるでしょ。

想像もつかない事が沢山ある世の中よ、大体分かるだけでも腹は括れるわ！」


「……それは君の哲学？」


どちらも聞きようによってはポジティブだが、言い知れない闇をふわりと感じる。そしてどちらも行く気は満々(アグレッシブ)。不安の面持ちで問いかけたジェイコブに、メラはにっこり笑って見せる。


「経験則(・・・)よ。
意外と人生経験豊富なの」


視線の先には獰猛なオスのカバ───を隅に追い詰め見境無く関係を迫る、カバ５倍増サイズの大型魔法動物(エルンペント)が居た。

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