Dragon girl【ファンタビ】

ニフラーと捕獲 ページ34

ニュートは少し困った顔をして、メラに「気を悪くしないでね」と予防線を張った。


「ドラゴンと戦ったよ。ウクライナ・アイアンベリー種── 東部戦線でね」

「私、別に本物のドラゴンに仲間意識なんてないけれど──マスター戦争に行ってたのね。聞いたこと無かったわ」


争いを好まないニュートの意外な過去に、メラは目をぱちくりさせる。そういえば出会う前の事を余り聞いたことが無い。


マフラーでハッフルパフだったんだろうな、とか、お役人時代、一時月給が銀貨数枚で──能力を生かせる場所では働けて無いんだろうな……とか。そういうので大体察して来たけれど、改めて聞いてみるのも良いかもしれない。


決意を固めて前を向いた──その瞬間。爪先がかつんと何かを蹴った。キラキラと放物線を描いて転がるそれは、


「宝石(ジュエリー)？」


ニュートとメラは目を見合わせる。宝石がまばらに落ちる道を見て。


「居るわ、近くに」


鼻をひくつかせたメラが捉えたのは、魔法動物特有の獣臭と貴金属のつんとする匂い──ニフラーだ。逃げた後じゃない、まだどこかの店に居る。


宝石の道と匂いを辿り、ニュートと手分けしてショー・ウィンドーを漁る。すでにやられている店が何軒かあって背筋が冷えた。


──あの子には一回、私達の弁償能力を知ってもらわなきゃ。１ガリオンでもしばらくおかずが減るのよ！


「マスターが一回本気で怒ったら大人しくなりそうなのに。私なんてなめられてて話にならないんだから───ちょっと待って」

「メラ？……わぁ」


ニュートの袖を引っ張って止める。磨きあげられたガラス越し、光る装飾品がかけられたスタンドの数々。その内の一つがぷるぷる震えながら──頑張っている。凄く。


こんな高級なジュエリーショップで、あんなカモノハシみたいなスタンドを誰が採用すると言うんだろう？


まじまじと覗き込んだニュートと、恐る恐る様子を伺うニフラーの視線が重なり──静寂。


まるでコントみたいな流れだ。思わず吹き出しそうになったメラに、ニフラーの視線がふいに移る。日頃逃げ出すニフラーを、吠え声一つで硬直させる女。《逃げなきゃ》とくちばしが紡いだのを、メラは見逃さなかった。


「マスター、逃げるわ！」

「──フェネストラ！」


ニフラーが脱兎の如く店の奥に逃げ込み、それと同時にガラスが粉々に砕け散る。ジェイコブがあまりの事態に悲鳴を上げたのは、聞かなかったふりをした。

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