クイニーと記憶 ページ26
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──クイニーの開心術は鉄壁の守りだった。
そっと出て行こうと目配せし、机の高さに隠れてしまうメラが扉の取っ手に手をかけたにも関わらず、彼女は息をするようにそれに気付く。
「ねえお二人さん。パイがいい?シュトルーデル?」
途端に扉に集まる目。ティナの失望したような視線もさることながら、ジェイコブまでが何故か咎めるような視線を向ける。いつの間にか彼まで姉妹陣営に肩入れしてきていた。多分クイニー効果だろう。
「……いえ僕らはどっちでも」
「お構い無く……」
ばつが悪そうに答えるニュートと共に、引き下がるメラも決まりが悪い。立場として二人は完全にアウェーだった。
宙で生地に巻かれる焼きリンゴに干しブドウ、皿に乗るまでにこんがり焼けていくシュトルーデル。甘い香りを漂わせる粉砂糖が一面を白く色付け、しっとりと馴染む。
ティナが机に灯りを灯した所で、ピケットが《良い匂い!》と興味津々にニュートの懐から顔を出した。心配事さえなければ私も同じ反応をしてただろう、とメラは思う。
「ほら座って、二人とも。毒は入ってないわ。メラさん鼻が効くみたいだから分かるでしょ?」
ティナの諌めるような呼び声と、圧すら感じるジェイコブの一睨みに、二人は脱出を一時断念せざるを得なくなった。
◆◇◆
「こんなうまいもん、生まれて初めてだ!」
「貴方って楽しい人!あたし、ノー・マジと話すのって初めて」
「ホント?」
かたや、出会ってすぐとは思えない甘いムードで会話の弾むテーブルの一画。かたや、逮捕した人とされた二人が、気まずく甘い焼き菓子をつつく一画。
明暗が別れたテーブルの空気に耐えきれず、「美味しい」と味の感想を述べてみるも、ティナからは「どうも」と味気ない返事しか返って来ない。
ずっと上の空のニュートは「良かったね。熱いから火傷しないようにしないと」とぎこちなく笑いながら、コップをメラの唇に押しつける。
「マスター?相当キテるのは解ったけど、子供扱い通り越して飼育の域に行っちゃうのはどうかと思うの。自分で飲めるわ」
「……ごめん、何かしてないと落ち着かなくて」
だからって。
メラが睨み付けた辺りで、ジェイコブの容態がまた悪くなったらしい。チャンスとばかりにニュートは立ち上がり、彼を部屋で休ませる事を進言した。
そこで一つ、誤算があったが。
「当然だけど、メラさんは別室よ」
ティナの一言に、二人は思わず目を剥いた。
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みかこ(プロフ) - るとさん!読んでくれてありがとう(涙)やっちゃった……こう言うのは勢いだよね((ジェイコブさん良いよね!めっちゃええ人……(尊い)むらむら更新だと思うけどのんびり頑張るね(゜∇^d)本当にありがとう! (2018年12月19日 8時) (レス) id: 243d49e4e1 (このIDを非表示/違反報告)
木兎宮ると(プロフ) - おお!ついに公開したのだねっ!!(歓喜)ニュートも好きだけど、ジェイコブさんが本当に好き(尊い)ので沢山出しておくれ…(願望)無理せずに更新頑張ってd( ̄  ̄) (2018年12月18日 19時) (レス) id: 68f0c4b0f7 (このIDを非表示/違反報告)
みかこ(プロフ) - 衛さん» わああ衛さんまで駆け付けてくださって……感謝の言葉が見つかりません嬉しいです(つД`)ジェイコブさんも大好きなので絡ませて行きたい……ゆるっと頑張りたいと思っておりますので気力続く限りお付き合い頂ければ幸いです(涙) (2018年12月17日 0時) (レス) id: 243d49e4e1 (このIDを非表示/違反報告)
みかこ(プロフ) - アイカ@低浮上さん» イメログからありがとうございます!何だか絵だけじゃ物足りない気がし始めてしまって……あれよあれよと勢いで公開してしまいました汗お褒めの言葉までありがとうございます!精進します( ;∀;) (2018年12月17日 0時) (レス) id: 243d49e4e1 (このIDを非表示/違反報告)
みかこ(プロフ) - アバンギャルド・マボさん» マボ様に読んで頂けたなんて幸いです(涙)そして恐縮でございます汗応援ありがとうございます!自分なりに頑張ります( ´∀`) (2018年12月17日 0時) (レス) id: 243d49e4e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みかこ | 作成日時:2018年12月16日 20時