Ep.150 機密事項 ページ50
流れ落ちるように口からこぼれたその短い言葉は、私の些細な弱音だった。
彼の表情は微かに揺れたように見えた。それがどんな意味を持ち何を思ったがゆえの反応なのかは知ったことではない。
「いったい何をしようと?」
「それは探偵の機密事項なんだけど」
「……なるほど」
人差し指を口元に当てて詮索を拒む。
探るような間があったもののキッドは顔色ひとつ変えず肩をすくめ、気を取り直すようにある画像を私に見せた。
「乙女の秘密とあっては無粋に踏み込むわけにはいきませんね。ではひとつ、話を変えさせていただきましょう────この人物をご存知ですか?」
それを見た瞬間、さてどう反応したものかと逡巡する。明らかに知っている顔……正確にはサングラスで顔はハッキリしていないが。
「……ああ、それ父さん」
「お父上……?」
「一応ね。どうしてこれを私に?」
「昨晩プールサイドで何やら話をしているところをお見かけしたもので」
この人相手に今更隠すこともないだろうと私は素直に言葉を返し、写真にもう一度目を落とす。誰の目で見ても隠し撮りなのは明らかだ。私に話しかけてきたのはコレが理由か。
「実はこの男、ショーの仕込みをしている最中にも一度顔を見ていまして……そのときは機関室付近ですれ違ったのですが、どうも船の関係者には見えないので少し気になっていたんです」
「それは“お前らは何者だ”って質問?」
「単刀直入に言えばそうなるかもしれません」
「もうすぐクルーズは終わるし、知らなくてもあなたは困らない」
「ええ、その通りです。単なる好奇心ですよ」
「じゃあ私から言えるのはひとつ」
端末を指さし淡々と言った。
「ソイツと私にこれ以上関わらない方がいい」
しん、と静寂が降りた。
相手の両目にじっと焦点を合わせる。あちらも凪いだ眼差しを私へ向ける。初めてまっすぐな意思が返されたような気がした。
「……そうですか」
宙に置くような言葉が静寂を破った。
それでも静かだった。私が引いた一線を彼は越えようとはしなかった。それはきっと、彼が探偵でなく怪盗であったからなのだと思う。
だが私が何も言わず立ち去ろうと思ったその瞬間、キッドはどういうわけか悠々とした動作で私の目の前に跪いたのだった。
「は?」
「では私はこれで。ああそうだ、この宝石はあなたに────」
「うっわやめて拒否」
宝石、と聞いて取られかけた手を振り払う。いつの間にかキッドはカラーダイヤを持っていた。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時