メタ推理が役に立たないJK探偵の本懐【名探偵コナン】

Ep.148 あるべき場所へ ページ48

朝はあまり食が進まなかった。

これからのことを考えればお腹を空かせている場合じゃない。というか、お腹は空いてるけどあまり口にものを入れたくない気分。

そのうち異変に気付いた蘭が顔を覗き込んできた。

「Aちゃん、もしかして体調悪い？」

「あ、ううん、別に……」

「そうよ、全然ご飯進んでないし。もしかして船酔い？ ってさすがに今更か……」

「……あのさ」

テーブルの下で忙しなく手を組みかえる。

ずっと考えていたけど、なんて言えばいいかが分からない。けど今言わないと何も言えないままだ。

緊張なんて、らしくもない。

「なに？ どうしたの？」

「……黙ってたんだけど」

「だからどうしたのよ、急に……」

「船を降りたら……私、もう皆とは会えないと思う」

「えっ！？」

「ど、どういうこと？」

子供たちは一様に声を上げてがたがた椅子を鳴らし、灰原さんは何も言わず私を一瞥する。

コナンもただ黙って視線をよこした。分かっていたような落ち着いた態度だが、私は彼から目を逸らした。

今、私は彼にも他の人と同じ意味で言葉を送っている。彼が思っているような意味ではないことを悟られてはならなかった。

「なんでだよ！？ どっか行っちまうのか！？」

「まあ……家庭の都合、みたいなもので……ちょっと遠くに行くことになってて」

「そ、そんなぁ……」

「たまには戻ってくるよね……？」

「分からない。でも……」

もちろんとは言えないけど、少しだけ笑ってみせる。

「ずっと覚えてるよ、みんなのこと」

なんて。

私も大概ひとりよがりだ。

ふと視線を感じた。コナンが何か言いたげに見つめてく る。

分かっている。けど、分からないフリをした。

もう決めているから。

周囲の人たちを守るための対応策じゃない。きっと本当にさよならだから。

だからせめて心を込めて言うね。

「ありがとう」

希望をくれてありがとう。

決意をくれてありがとう。

平穏の日を、楽しい思い出をありがとう。

あとはもう誰も私に関わらなくていい。

すべてが上手くいけば、あるべきものがあるべき場所に戻るだけだから。

「……じゃあ、先に行くね。荷物散らかってるから纏めてくる」

何も見ないようにして席を立った。

やっぱり寂しさはあったけど、胸のつかえがひとつなくなった。

これであとはもう────実行するだけだ。

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