メタ推理が役に立たないJK探偵の本懐【名探偵コナン】

Ep.142 なんでもないこと ページ42

日が暮れてからしばらく経っても船内の一部は絶えず明かりを点し続けているが、日付が回る頃ともなればクラブもラウンジも静まり返る。

部屋を抜け出すのは容易かった。少なくとも探偵や組織の仕事に比べれば。皆、昼の遊びと夜のマジックショーで疲れていたようだ。

甲板のプールは暗闇に沈んでいた。

「(曇ってるな……)」

ビーチチェアに腰掛けて父さんが来るのを待った。

やがて指定の時間ちょうどになって現れたのは、やはりこの暗さでもサングラスをかけたままのボックだった。

「……ずっと思ってたんだけど、目が悪いってホント？」

「ここ最近になって急にな。せっかく近視を卒業したと思ったらこれだ」

確かに記憶の中の父はド近眼のためいつでもメガネをかけていて、骨格はもう少し細く、輪郭もよくよく見てみれば違う。

前の世界とは別の身体なのだ。

しかしそうなると、私だけがこのままの姿でここにいるのが気になる。

「もしかしたら父さん、あっちの世界ではもう死んでる？」

「縁起でもないことを……と言いたいとこだが分からん。こっちに来る直前の記憶は曖昧だし、お前がそうじゃないならオレが死んでるって考えるのが道理か……」

「でも帰る方法を見付けたんじゃ……あっちの身体が死んでても帰れるものなの？」

「さあな」

「さあなって……」

「どの世にも怪しげな研究を本気でやる奴らってのはいるもんでな、そいつらとなんとか連絡を取ってやり取りを続けてたんだが、つまるところは憶測混じりの確率論だ。今んとこ確証なんてものはどこにもない」

「何それ……帰る手段さえ不確かなのに、それを断った私を殺そうとまでしたのは……」

「殺そうとした？ バカ、本気なわけあるか。あの場には例の探偵がいただろ。オレと対立すりゃお前はあちら側に戻れると踏んでだな……」

「……だッ……から勝手にそういうこと決めんなって！ 結果的にはそうなったけど、そもそも私を組織に引き込んだのは父さんだろ！」

「けど結果的にそうなっただろ？」

「結果論！！ っていうか先に言えよそういう大事なことは！ 疑って正解だったわ！」

「アレは詳しく話す前にお前が提案ごと蹴ったんだろうが……。まあ、その件は上手くいったようで良かったよ。根回しの手間は省けたな」

「根回し？ ははっ、私が組織を裏切るのを初めから予想してたとでも────」

「いや、逆だ。オレが組織から見切りをつけられかけてる」

予想外のセリフに言葉が詰まった。

Ep.143 長い長い夢の中→←Ep.141 無欲な男

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す