Ep.140 味方でもない ページ40
「……お食事をお楽しみいただきましたところで、時刻は八時五分前となりました……」
控えめな照明の下でディナーパーティーは滞りなく執り行われた。
ドレスコードは一日目同様だが、今回はフルコースの着座形式。周囲のテーブルには一般客らしきグループが多く、鈴木財閥側から招待を受けたお偉いさんたちがステージ近くの席を占めているようだった。
「皆様ご存知のようではありますが、今夜クルーズ四日目の午後八時、当鈴木財閥の所有するビッグジュエルを狙う怪盗より宝石を頂戴するとの予告を受けております」
ステージに立つ女性が淑やかに告げると、会場からはざわめきが立ち上った。
時計が八時五十六分を指す。
ちらりとコナンを見る。視線に気づいて目が合う。期待を断る意味で、曖昧に笑って返した。
残り三分、二分、一分……。会場のボルテージが静かに高まってゆく。
「それでは皆様、カウントダウンです!」
十、九、八。
子供たちが元気に声を上げる。
七、六、五。
大人たちも声を揃え始める。
四、三、二。
何人かが鋭く辺りを見回す。
そして────電気が消えた。
胸元に挿した薔薇にそっと手をやる。
ああそうか、とこんなときに理解した。
彼の盗みを見に来る大衆は、少なからずこんな気持ちを抱えた人達なんだろうと。
皆、マジックショーを観に来ているのだ。
華麗で大胆な奇跡、世界を手玉に取る魔術師の妙技を。
嵐のように事が立て続いた。警察が動き回り、ディナーの客は落ち着かない様子、やがて電気が復旧し、ショーケースに異変があった。
そしてついでにコナンもいなかった。ショーケース目掛けて前方へ駆け寄っている。
騒然とする空間の端で私はテーブルクロスに頬杖をついた。
さあ、どう展開する?
探偵も含めて全てがショーの筋書きだ。役の札を外した観客気分で、スポットライトの当たるステージを眺めた。
視線を感じたような気がした。
「(まさか……父さんもこの会場に?)」
気を取られたがすぐに意識を元に戻した。
どうせすぐに会うことになる。
「(それよりも、今は────……)」
楽しもう。
敵じゃない、探偵の活躍を。
味方でもない、観客としての私を。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時