Ep.129 孤独の影 ページ29
冷たい気配。
その視線に射られたわけでもないが、灰原哀は寒気を覚えて腕を抑えた。
理屈より先にどうしようもない不安感が背筋を這った。
この感覚。
「(まさか、彼女────……)」
思わずそばにいたコナンの服を掴んだが、コナンは灰原の方を一瞥しただけで何も言わなかった。
「これでいいって、アンタ……。お、おい、誰かハンカチかなんか持ってないか?」
「いらないよ。それより、変装じゃないってことは証明できたんだからもう部屋に戻っていい? お風呂入って着替えたい」
「あ……待ってAちゃん、これ使って!」
蘭が差し出したハンカチを、ふっと笑って優しく押し返した。
「ありがと。でも汚れちゃうから」
「で、でも、顔に痕が残ったりしたら……」
「痕? そんなの別に……」
一瞬、冗談を笑い飛ばすような気配を見せた彼女は、ハッと我に帰ったように言葉を止めた。
「……そうだね。気を付ける」
問いも答えも全て自分の中に落とし込んでしまったような、孤独の影を帯びた微笑。
それは……その感情は、少しだけ理解できるような気がした。
今まで当たり前だと思っていたものからかけ離れた場所にいて、ふとした瞬間、自分と他人の間にある差異が浮き彫りになる。
彼女の表情は、そういった内面的な孤独と向き合う時の色を含んでいた。
「工藤くん……彼女、何かあったの?」
会場を去るAを横目に、小声でそう尋ねると、コナンはわずかに言葉につまる気配を見せた。
「……ああ、ちょっとな」
「ねえ、怪しいとは思ってたけど、まさか本当に組織の……」
その時だった。
歩美が「お姉さんのところに行ってくる!」と言い残し、ハンカチを握りしめて走り出そうとする。
思わず腕を取って制止した。
「あ、哀ちゃん?」
「あ……その……」
────一人にしておいた方がいい。
そう言って留まらせるつもりだった。
「……私が様子を見てくるわ。先にみんなと部屋へ戻ってて」
「えっ?」
「お、おい、灰原!」
早足に出口の外へ姿を消した灰原の後を、コナンが小走りで追い掛ける。
物音だけがある静寂の中、蘭と園子が顔を見合せた。
「……あの子、ああいうタイプだったっけ?」
「さあ……」
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時