Ep.127 ご挨拶代わり ページ27
「ではひとつ、可憐なお嬢さんへのご挨拶代わりに」
乗務員の顔が気取った微笑を作る。
声帯模写も素晴らしいと思ったけれど、その変装技術は習えるものなら是が非でも習いたい。技術なら元の世界に帰ったあとも役に立つわけで……なんとかしてコツだけでも教えて貰えないだろうか。
と、ふいに乗務員が妙な動作を見せた。
左手を掲げてゆっくりと指を曲げ、フッと口元がイタズラっ気に笑う。
何かを察したコナンが麻酔銃を構えた、その瞬間────
パチン。
指を鳴らす音と同時に、あたりの照明が一斉に落ちた。
「なっ……!」
闇に包まれる視界。立ち去る足音。遠くから聞こえる複数人の声。それらはきっと一瞬だったのだけれど、コナンと私がそれぞれ腕時計とスマートフォンの明かりを向けた時、さっきまで人がいたはずの空間には誰もいなかった。
「……クソッ、消えやがった!」
「配電盤は制御室に……そうか、キッドなら人がいようがいまいが関係なく侵入できるんだ。そこ見落としてたのは悔しいな……」
「その反省するの今じゃねーよな!?」
コナンが闇雲に走り出そうとしたとき、唐突に明かりが戻った。元の明るさに目が眩む。
復旧が早すぎるし、火花の散る音や爆発音はなかったから、何らかの仕掛けを使ってブレーカーを落としただけか。
「……逃がしたか……」
「あ」
「どうした?」
「花を貰った」
ふと足下を見ようとして、上着の小さなポケットに一輪赤いバラの花が挿さっていることに気が付いた。
「……あ、そう」
「コレって"ご挨拶代わり"?」
「だろうな……」
「まあ、面白い出会いだった」
自由自在に声を変え、どんな姿にでも成りすまし、よりによって生花を常時持ち歩き相手の懐に忍ばせる神業……いや、別に最後のはいらないな。
しかしなるほど。これが怪盗キッド、ね。
「とにかく、キッドが出たことは中森警部にでも伝えておくか……」
「あ、私もう部屋に戻っていい?」
「なんで?」
「なんでって……怪盗騒ぎにはあんまり興味ないし。部屋っていうか、確認したいことが他にもいろいろあるから船内歩き回るつもりだけど」
「……写真の男は船の乗務員に扮してるんだろ? もしホールスタッフに紛れてるとしたら、ちょうどパーティーが終わる今の時間は探し出すチャンスかもしれねーぜ」
「……それもそうだね」
一輪のバラを手の中で弄んだ。
こうも見事に咲いていると、捨てるには忍びないな。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時