Ep.126 答えるつもりなら ページ26
「この階段を昇ったら客室フロアだから道は分かるね? まったく、探検もいいけれど、もうこういう場所には入るんじゃないよ」
「待って。一個聞きたいんだけど」
手を挙げて去ろうとする乗務員の背中に声をかけ、振り返ったその人に、私はできるだけ何気ない風を装って尋ねた。
「あんた、例の怪盗?」
笑顔が張り付いたように固まった。
表情こそ崩れなかったが、その一瞬の間で確信が持てた。やっぱり、コナンからのアイコンタクトはそういうことか。
「えーっと……いったい、どういう……」
「あれれ? 乗務員さんの制服の肩についてる肩章……金色のラインの間が赤色になってるね。たしか船の乗務員さんってみんな肩章や袖章で階級が明示されてて、こんなふうにラインの間が赤いのは……」
「船医だね。航海中に発生する全ての保健問題を担う医者」
「へ〜、A姉ちゃんそんなことも知ってるんだ!」
「旅行中にお世話になったことがあってね」
「そ、そう……」
「で、その船医さんが機関室になんの用? 今は全乗客の集まるディナーパーティーが佳境のはずだけど、不慮の事故や急病人に備えたりしないの?」
「制御室には急病人や怪我人なんていなかったよね?」
「その先の機関室にも、ね」
「じゃあどうして船医さんがこんなところにいるのかなあ」
「さあ。私の質問に『いいえ』と答えるつもりなら、納得のいく理由を教えてほしいところだけど」
私たちが話している間から、乗務員は困惑した顔で佇んでいた。
それでもただ返答を待つ沈黙があった。きっとそれは相手の心情を測り合う時間だったのだと思うけど、私はただ過ぎる時間を数えていた。
怪盗キッドに対してそこまでのこだわりはない。ただ、目の前の人間が本当にあのキッドなのか、この目で見ておきたいっていう興味はある。どうしてもそのへんにいそうな中年男性にしか見えないから。
深々と息をつく男。
「……そこまで言われちゃあしょうがねぇな」
鮮烈な驚きがあった。まるで別人の声がしたのだ。目の前の中年クルーから、聞き覚えのある若い男の声に。
すごい。そのスキル私も欲しい。
「やっぱりお前か、怪盗キッド!」
「ご名答! しっかしまあ、よくもパーティーの真っ最中にこんな場所で鉢合わせるもんだぜ。あろうことかこんなお嬢さん連れ回して……」
「……連れ回されてたんだよ、こっちが」
「え? そ、そりゃ……ずいぶん手強そうなお嬢さんだな……」
「どうも」
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時