Ep.118 仲間割れ ページ18
「……そうか」
低く、呟く声は、聞こえたような気がしただけだった。
ほとんど海風に紛れていた。聞かなかったことにしようと、振り返るつもりはなかった。
「悪いな」
その二言目は比較的、明瞭に聞こえた。妙な予感がした。違和感があった。振り向こうとしたその瞬間────
「A! 伏せろ!!」
声がした。身体が止まった。
誰だろう、私を"A"と呼ぶのは。
また、いつの間にかそばにいたのは。
視線をさ迷わせて初めて気付いた。
────こちらを覗く銃口に。
─────────
二人はしばらく何かを話していた。それは、僅かに残っていたオレンジ色が宵の紫色に変化するくらいの短い時間だったが、徐々に険悪になっていく空気だけはこの距離からでも読み取れた。
「……さあね」
そう呟くのが聞き取れたのは、彼女がその場を去ろうと身体の向きを変えたからだった。その声音からするに対話は穏便には終わらなかったらしく、傍から見れば仲間割れに近い様子だ。
彼女の動向も気になるが……それよりも警戒しなければならないのは相手の男の方だろう。
男も黒ずくめの組織の人間であるなら、恐らく奴らはこの船で何かを起こそうとしている。彼女はもしかするとそれに反対しているのかもしれないが……何にしろこれは奴らを探るチャンスだ。
そう思った次の瞬間、信じられない光景が目に飛び込んできた。
────男が懐から拳銃を抜いた。
彼女は気付いていなかった。銃口がその背に向けられた瞬間でさえ。
「────A!」
思わず彼女へ叫んでいた。
駆け出しながらベルトに付いたボタンを押し込み、流れるような動作でスニーカーのダイヤルを回す。バックルから宙へ飛び上がったサッカーボールへ軸足を踏み出す。
狙いを定めて利き足を振り抜いた。
キック力増強シューズ。屈強な大人でさえ吹っ飛ぶほどの威力をもってゴム製のサッカーボールは一直線に男の手首と拳銃を弾き飛ばした。
「ぐッ……」
コナンは半ば倒れ込む形で身をかがめたAに駆け寄ると「こっち!」と手を引いた。
しかし彼女の身体は思った以上に動く気配がなかった。Aは一瞬、確かに自らの意思で、なぜかその場に留まろうとしたのだ。俯き気味の表情を見返す。
「おい、A……!」
「ッ……ふふ……」
口の端から震えた声が漏れたかと思うと、彼女は唐突に笑いだした。
「……あっ、ははは!」
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時