メタ推理が役に立たないJK探偵の本懐【名探偵コナン】

Ep.102 もうすぐ夏になる ページ2

そして────組織内での正式な初仕事である一連の調査は、私の探り屋としての地盤となったようだった。

結果としてバーボンに騙された形ではあったが、要するにあれはここでやっていける人間かどうか、私の能力を測ろうとしていたのだと思う。現状、仕事の指令以外で組織からの沙汰がないのはそういうことなのだろう。

あれからいくつか仕事をこなしてきた。

ほとんどが私の知る探偵と酷似した業務で、基本的には依頼を受けて個人あるいは団体を対象に、決して痕跡を残さぬよう求められた情報を調べ上げ証拠を持ち帰るだけ。違うのはその結果を報告する相手が一般の依頼人か所属する組織そのものかって点くらいだ。

……まあ、それから、調査する相手も一般人でないことの方が多い。明らかに違法な取引をしていたり、怪しげなものを隠し持っていたり。

ただ……もし、仮にだが、私が誰かにこの世界に来てからのことを語る機会があるとすれば、ここ数週間のエピソードは台本落丁のごとく割愛することとなるだろう。

なぜって、大した出来事が特に何もないから。

あの魔王軍のごとき面々と顔を合わせたのは結局のところあれっきりで、仕事でバーボンと顔を合わせることはあっても、必要性のない話題は引くほど互いに振らないし他のキャラクターとも全然出会わない。

とはいえ、運がいいのか単純に能力のためか、梅雨が明ける頃になっても私は元気に生きていた。

依然として元の世界に帰る手がかりは見付かっていない。

信号で立ち止まって青い空を見上げる。都心では久々の晴れ間だった。

「……今日で何日目だったかな」

綿密に数えるのはやめた。あんまり意味がなかった。

すぐ夏になるなあ。でも、このままじゃ夏らしいことなんて出来ないだろうな。そんなことを考えながら、さすがに長袖では暑くて買い足した私服姿で、ごく当たり前の街の景色に混じって、私は今日も米花町をあてもなく散策していた。

────そしたら。

珍しいことではない。本当に、この街にいるだけで、珍しくもなくなるのだ。

あてもなく歩いていて、そこらで事件に遭遇するなんてことは。

往来に女性の悲鳴が響いた。それは丁度正面の方向、目に見える範囲で起きた出来事だった。状況から察するにひったくり、女性のバッグを持ってこちらへ走ってくる見るからに不審な男を完全無視するのもどうかと思い、咄嗟に手を出してしまったのだった。

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