手頸の愛鎖/ snpisn ページ9
#
「はい、もうしないでね。」
「はい、ごめんなさい。」
かたり。木製の救急箱が閉まる音が異様に心地良く聞こえた。背中に感じる柔らかな体温が私に緩々と腕を回して小さな小さな鳥籠に閉じ籠める。薬品の良い匂いがする。彼は私の肩に顔を埋めて静かに呼吸を整えていた。彼の男性らしい、がしりとした腕が腹に回ったのでぺちぺちと叩けば更に強く抱きしめられた。
「ちょっと、ぺ神。」
「んー。や。」
こうなったら彼は全く耳を貸さない。普段は落ち着きを払った素敵な大人の男性なのだけれど、嫌な事があったり、悲しい事があったりすると彼は無性に私に縋る。何を重ねているのかは分からないが、こうなったら彼が満足するまで私は身動きが取れなくなってしまう。
「どーしたの、ぺ神。」
「Aちゃんの苦しみに気付けなかったのが不甲斐なくて。」
彼が私の腹に回していた腕をするすると解いて、私の右手首へと伸ばしてゆく。彼が包帯を巻いてくれたおかげで痛みこそ和らいでいるが、やはり彼にとっては辛く悲しいことなのだろう。気遣いたっぷりに触れられた右手に彼の指が絡まる。
「……ぺ神の所為じゃない。私が弱い所為。」
「違う。」
彼の指にきゅ、と力がこもった。毎度私を天使か何かの様に気遣って触れる彼の意外な拒絶。少しだけ込められた力が今の私には心地よかった。こうして本気で私を心配してくれるのはもう彼だけだから。彼は私を手繰り寄せる様に抱きすくめると艶めかしい吐息を吐いた。
「こんなに、こんなにAが苦しんでるのに、Aの所為だなんて残酷過ぎるで。俺は、ただAの苦しみを取り除きたいだけなんや。」
神に縋る様な弱々しく何処か危うい声。友人達に神の様な心の持ち主だと揶揄われている彼にしてはあまりにも悲痛だった。彼は今、確かに怒っていた。言い聞かせる様な言い訳めいた口調。絡んだ指に込められる力が一層強くなる。私の貧相な指は軋む様に疼痛を訴えだしたが、彼がこれ程にも自分に対して激昂してくれたのがたまらなく嬉しかった。こんな一介の女学生に対して大の大人が感情任せに思いの丈を打つけることが滑稽で愛しかった。彼は暫く私を強く抱き締めた後、緩慢に力を抜いた。
手頸の愛鎖/ snpisn→←Book Maker / nisn
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 118人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 栄養失調さん» みんな大好きやまとちゃんですが、噂(史実)によると沈没日が4月7日付近らしいのです。厳密には沖縄周辺にはでは散っておりますが、あくまで全国平均です。大和戦艦ミュージアムで桜の花をモチーフにしていたりしたのでつい。コメント誠に有難うございます。 (2019年10月14日 7時) (
レス) id: 470ef09c6f (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - 鵯さんの書く作品は本当に美しいですね。言葉一つ一つが繊細で……なんか、言葉にできないような、はい。頑張ってください！！！！(やけくそ) (2019年10月14日 1時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - ちょっと待った(迫真)桜纏し大和戦艦……？さくら……さく……ら……？桜は散り際が……一番……(涙戦崩壊) (2019年10月14日 0時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
