【wrwrd!】桎梏ダイナミズム【短編集】

豆と劣等星/ knsm ページ44

#



かこん、と音を立てたコーヒー缶の中身は粗残っていなかった。側面のパッケージに描かれているのは黄土色の星。誰でも買える安物の銘柄だ。最近は高級志向が流行りだして、この銘柄も例に漏れずブランディングを主張していた。隣の彼はそれをちらり、と一瞥しただけで、すぐに視線を前方へと戻した。私も彼と同方向に視線を戻す。

「ありがとな。」
「何が。」

態とらしく訊いてやった。彼は暫く逡巡している様だった。もしくは言うつもりがないのか。宵の色に反射したミヨゾティの双眸がネオンの様にぴかぴかと光った。まるでイミテーションジュエリーの様で少し、毒々しかった。彼は愛用のセブンスターを薫せながらまるで鉄塔に宙ぶらりんになった鉄線の様にノスタルジックを答えた。

「友達でおってくれて。」
「何、今更。」

再度彼は煙草に口を付けた。昔から変わらずのセブンスターは柔らかく温い温度のまま、私達の間を煙で満たしていった。私と彼の距離は未だに変わる事はない。それを彼も私も望んでいた。変わる未来を望んだ瞬間に私達はどうしようもない愚図に成り下がるのを分かっていた。

「いや、何となく言うといた方がええかな、と。」
「水臭い。嬉しいけど。」

ふー、と吐かれた白煙が夜闇を食んでしまわんとする霧の様に宵にふわりと息巻いた。くるくると吐かれた生温い煙は夜冷えの冷涼な空気に晒されて穢白した徒花を咲かせては萎れ、龍の絢爛とした姿を描いて消えて行く。

「ねぇ、離婚したって本当。」
「おう。どうやら金目当てやったらしいで。でも真面目なお嬢さんやったから臆病でなぁ。俺がヤクザやと知って怖気付いたんやと。しゃあないから娑婆へ帰したったわ。両親は残念ながら使い潰すんやけど。」
「酷い話だね。」

ぐりぐりと携帯灰皿に煙草を押し付けている。残存黒龍とばかりに漆黒に近い龍が彼の指から生まれ、宵に溶けてゆく。彼はそそくさと品の良いそれらを胸内に片付けた。その代わりに胸からは忍ばせていたリボルバーが顔を出す。どうやら私の命も此処までらしい。かちゃり、と音がして拳銃が眼前に突きつけられた。

「遺言はあるか。」
「コーヒー缶、分別して捨てておいてよ。」

caffè e llatte / cino→←Soft pinkの堕落論/ rbr

• 金　運: ★☆☆☆☆
• 恋愛運: ★★★☆☆
• 健康運: ★★★★★
• 全体運: ★★★☆☆

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す