猫と鞠と微風と/ ut ページ12
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「よい、っしょっ、と。」
「ジジくさい。」
防寒だけのお飾りの毛布を乱雑に退けて彼はベッドから床へと脚を伸ばす。此方に向ける、ちょっと猫背な背中がこんなにも愛おしい。華奢で細い彼の背中は何処か頼りない。彼はキャビネットに合わせて置いていたケースと100円ライターを無造作に引っ掴んで一服しだした。
「なぁ、Aちゃん。」
「ん?」
しゅぽ。ライターの炎の音。嘆息する一連の呼吸。きっと彼は手慣れてしまって無意識でやっているのだろうけど、それが彼の本心な気がして少しだけ、ほんの僅か。虚しく感じてしまう。私は胸に蟠る感情に気付かない様に寝返りを打って彼に背を向けた。これ以上人間ごっこはしたくない。私は今の完璧な私でいたいのに。
「好きやで。」
抑揚の無いその声は無性にころり、とついていた鞠が手から転がり落ちたように響き渡った。少しだけ怖かった。行為中に瞼の隙間から覗き見た彼の藍色の瞳が、厭にぎらぎらと熱を孕んでいた彼の姿が思い出されて。向けられる感情が釣り合っていない気がした。彼が与える感情が私の勘違いであればと思った。
「Aちゃんの事が好きなんや。」
「……お遊びは程々にね、鬱。」
もう一睡しようと思った。きっと次目が覚めたら此処に彼はいなくていつも通り料金を払って日常に戻れる。けれど彼がそれを許す気配はなかった。吸い始めた煙草を灰皿で無理矢理揉み消して私を乱雑に組み敷いた。その目は爛々と輝いて悍ましかった。
「ははっ……。お遊びなぁ。今すぐ賭博に変えたろか。」
いつもはおちゃらけている彼の声が怒気を孕んで一気に低くなった。ひゅ、と喉が締まり、呼吸さえままならない。彼はまるで猫がひたり、ひたりと獲物を狙う様に心底愉快そうに目を細めた。彼の鋭い爪が薙いで、私に向けて突き立てられる。にまり、と笑う彼にまたもや彼の策にはまったと気付かされた。
「其方がその気なら尚更引き下がれる訳無いやろ。」
軽く頬に唇の感触。驚いて目を開ければ彼はするり、とベッドから降りて、何事も無かったかの様に服をかき集めて浴室に消えてしまった。全くもって自由で、不幸と嘯くペテン師に溜息を吐きながら私もベッドから起き上がった。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
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鵯(ひよどり)(プロフ) - 栄養失調さん» みんな大好きやまとちゃんですが、噂(史実)によると沈没日が4月7日付近らしいのです。厳密には沖縄周辺にはでは散っておりますが、あくまで全国平均です。大和戦艦ミュージアムで桜の花をモチーフにしていたりしたのでつい。コメント誠に有難うございます。 (2019年10月14日 7時) (レス) id: 470ef09c6f (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - 鵯さんの書く作品は本当に美しいですね。言葉一つ一つが繊細で……なんか、言葉にできないような、はい。頑張ってください!!!!(やけくそ) (2019年10月14日 1時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
栄養失調 - ちょっと待った(迫真)桜纏し大和戦艦……?さくら……さく……ら……?桜は散り際が……一番……(涙戦崩壊) (2019年10月14日 0時) (レス) id: 3967b4b60c (このIDを非表示/違反報告)
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