【wrwrd!】桎梏ダイナミズム【短編集】

データに価値など無い/ tntn ページ2

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ぽん、しゅわり。彼女に頼まれて断れずに結句、自宅から2キロもあるこれでも最寄りのスーパーに足を運んだ。丁度昼下がりの今はアスファルトに太陽が反射して、じわりじわりと脳漿を沸騰させてゆく。お気に入りのＴシャツにはべちょりと汗が染み込んで彼女がチョイスした柔らかな洗剤の爽やかな匂いが鼻を擽る。遠くで空蝉が弾けた音がした。

……暑いなぁ。

はぁ、と溜息を吐けば太腿に冷涼感。外気温との差により昨今は自費購入となったレジ袋が少々水気を孕んでいる。早く帰らなければ忽ち温くなってしまうだろう。折角購入したからには美味しく飲んで貰いたい。そう視線を傾ければ青空を思わせるパッケージが透明のレジ袋の中で反射する。

まぁ、悪くないなぁ。

からん、と涼やかに音を立てるのは昔懐かしいラムネ便。未開封のそれはスーパーから購入したばかりだというのに夏の暑さに触発されて立派に汗をかいていた。俺も額から際限なく溢れる汗を拭いながら帰路を急ぐ。あまりこの炎天下にいすぎては熱中症になってしまう。一つ溜息を吐いて押しボタン式信号のボタンを押して信号を待つ。

Aトンちゃん、西瓜がすっかり冷えました。
A早う帰って来て下さい。

ポケットの中に突っ込んでいた携帯がふるふると震えた。炎天下の中でアプリを起動すると愛しい彼女からのメッセージ。実に簡潔で素っ気ないものだが、中々文明の利器に馴染まない彼女のことだ。本来ならばいつもの優しい笑顔で語尾もふんわりしたものだっただろう。彼女に了解の旨を伝えれば丁度信号が青に変わった。対面で待っていた小学生と思しき少年達を見送ってから緩慢に渡る。信号はすぐに明滅してまた赤に戻った。今の時間はやはり暑いからか外界に出ている人間は少ない。現に右手のガソリンスタンドには一台も車が停まっていなかった。

嗚呼、草木が萎れとる。ほんまに暑いんやなぁ。

ガソリンスタンドの横にある予備校の花壇に申し訳程度で植えられた向日葵も哀しげに草臥れた姿を見せていた。ガソリンスタンドを右に曲がって住宅街へ。何処か日本家屋が多いのは学校と寺院が近くにあるからだろう。

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