大切な人の席【江戸川乱歩】

8席 ページ10

乱歩side

「うまうま」

「んー美味しかったね」

彼処の善哉は、絶品だよ

Aも頼んだものは違うけど、美味しそうに食べてたし

来てよかった

「うわっ…何でここ人多いの？」

さっきまで混んでいるとは云えないぐらいだったが、探偵社に戻る道で人っ子一人通れないぐらいの人だかりが出来ていた

別に何でそうなったかは興味ないからいいけど

「どの道を通ってもここは通るしなぁ」

「通りたくない」

不貞腐れたA

んー…仕方ないなぁ

「バッグちゃんと持って、目つぶって」

Aの手を離れないように繋いで一気に人混みに突撃する

Aは、ちゃんと僕の云った通りにしているのが手を繋いでる強さでわかった

ひ弱…全然痛くない強さ

その勢いで、探偵社まで走って帰る

「ただいま！」

「えっ？どこ？」

「もう目開けてもいいよ」

「…ほわっ探偵社じゃん」

少し気が和らいだのか、大きな溜め息をついていた

人混みが嫌いな原因は勿論僕は知ってるけど

前より酷くなってる

「具合悪かったんですか？熱ありそうな顔ですが…」

「おぉ…白髪君、違うよ。ちょっとしたことさ」

「し、白髪君…？」

誰もあの人混みのことを知らなそう

一から話すのも面倒

「何も無いよ」

唯そう云って、席に着いた

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