花弁がごじゅうろく ページ21
◇◆
炭治郎の腕の隙間から、飛んだ累くんの頸と目が合った。下伍の文字が刻まれた瞳には、震え上がる程の圧迫感も殺意も無かった。……ただ、悲しみに揺れていた。
頸を失った胴体は、おぼつかない足取りで私達の元に近づく。禰豆子ちゃんと炭治郎の絆を本能的に求めたのだろう。
あと一歩、という所で累くんの胴体は倒れた。私を抱えていた炭治郎の手が累くんの背を撫でる。
「でも…山ほど人を殺した僕は…地獄に行くよね……父さんと母さんと同じところへは…行けないよね…」
崩れかけた累くんの頸が発せられる言葉は切なかった。自身の行いを悔いたような声色に胸が締め付けられる。
(ずっと、寂しかっただけなんだよね)
『大丈夫。行けるよ……家族なんだから』
無意識に呟いた言葉と共に、累くんは崩れた。私の言葉が届いたかは定かじゃないが、原作通りなら両親と無事に会えたはずだ。
「人を喰った鬼に情けをかけるな」
冨岡さんの声に、ハッと我に返る。冨岡さんは累くんの着物を踏んだまま、淡々と炭治郎を諭した。
荒い息遣いのまま炭治郎が、冨岡さんに反論する。
「鬼は人間だったんだから。俺と同じ人間だったんだから」
「……お前もそう思うのか?」
炭治郎の素晴らしい言葉を聞いていると、突然冨岡さんに話を振られた。青い瞳が、ちょっと前にキレられたのを思い出させて体が強ばる。
『私は、』
ぼんやりと鬼について考える。そういえば、今まで死なない為に必死すぎて考えたこともなかった。
『私は鬼は怖いし出来るだけ会いたいくないです。でも、悔やんでいる鬼の気持ちを無視したくはないです』
行いを悔いて、流した涙さえも無視してしまったら私達は鬼と変わらない。
『言葉を交わして、手をとりあえるのが人間なら気持ちだけは無視しないで受け入れたいかなーって』
「……甘い考えだ」
吐き捨てるように冨岡さんがそう言う。正直私も綺麗事が過ぎるなとは思った。でも、
「Aの言う通りです。醜い化け物なんかじゃない。鬼は虚しい生き物だ。悲しい生き物だ」
彼の言葉だけは否定したくなかった。だって、炭治郎の言葉はいつだって優しさが詰まっているから。
「お前たちは……」
冷たかった冨岡さんの瞳が、ほんの一瞬驚いた。瞬間、風が頬を撫でたかと思うと刃の交える音が響く。
「あら?どうして邪魔するんです冨岡さん」
可憐な声と共に、綺麗な羽織が蝶のように舞った。
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美穂(プロフ) - 凄く続きが気になります (2022年12月1日 22時) (レス) id: c0f42fdb83 (このIDを非表示/違反報告)
白猫さん(プロフ) - 面白かったです!! (2021年10月10日 16時) (レス) @page32 id: d1d66ac9b7 (このIDを非表示/違反報告)
おもち - はじめまして!お話面白かったです!更新しないのですか?続きが気になります! (2020年9月8日 23時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
床に落ちてるゴミ - あれ?更新しないのですか?とても面白かったので続きが読みたいです! (2020年9月7日 18時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
日和 - 凄く面白かったです!ヽ(*´∀`)ノ続きが気になります!ゆっくりでいいので更新待ってます! (2020年9月4日 15時) (レス) id: 9b97fff7dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちょこもち | 作成日時:2019年6月27日 23時