二十三頁〜狂い始めた歯車4〜 ページ29
『はぁー。
たっく、めんどくせえなあ。Aちゃんはよー』
「Aちゃんて言・う・な!」
その呼び方は女の子扱(あつか)いされているようで気にくわない。
ちゃん付けで呼ぶなと今まで何度言ってきたことか。
そもそも今日はそんな気分じゃない。
真剣に話している所、茶化されるのはどうにも腹が立つ。
人の気も知らないで何て能天気な奴なのだろう。
こっちは色々大変だったのに。と、ここ最近の出来事を思い返していれば、余計にイライラしてきた。
でもきっと。
そう思っていられた方のが、まだ良かったんだ。
『ははっ! なんだ元気じゃねえか』
「っ!」
ああ、最悪だ。
そういうことか。
気づきたくなかったよ。
「元気に決まってるだろ。
ただ、お気楽な暇人(ひまじん)玄夜と違って俺は、時間をもて余す余裕が無いんだよ。常に忙しく、何かを考えながら生きてるからね。
まあ、たくさんの人に頼られている証拠(しょうこ)だから、喜ばしいことでもあるよ」
『おっ、嫌味もキレッキレだな。
でもな、お前もちょっとは人を頼ることを覚えろよな』
キレッキレとか言っておきながらしれっと返してくる辺り、性格が悪いと思うのは俺だけだろうか。
「玄夜のくせに……」
『何だよ。玄兄(げんにい)って呼んでくれねえの?』
「呼ばない!
てかさ、さっきっから何か楽しんでるだろ」
『おいおい。これでも“かわいい”弟分を心配してるんだぜ?』
かわいいをやたら強調した言い方に悪意を感じた。
「こういう時だけ年上ぶるなよ」
『Aだって、都合のいいときばっか年下ぶるじゃねえか』
「っバカ。もういい、おやすみ!!!」
『おう、またな』
通話を切れば、そのまま端末(たんまつ)をベッドへと投げ捨てる。
「……さいあく」
声色が暗くなってしまったのもそうだが、きっと電話をかけた時点で俺はどこかおかしかったのだろう。
それにしたって、彼に気を使われたのは本当に癪(しゃく)だ。
玄夜が異変を感じるほど、沈んだ声を出してしまった自分が情けない。
彼が茶化しを入れたのはわざとだ。
そう。うっかり暗くなりそうになった空気を変えるため。
でも、どうせなら俺に悟(さと)らせないでほしかった。
まあ、そこまで気をつかえる奴だなんて思ってないけど。
基本、気は合うけど嫌な奴だし。
だけど、平助ならきっと。
とか考えてしまう辺り、俺は薄情だし、とても酷(ひど)い奴なんだろうね。
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作者名:フロース | 作成日時:2019年3月4日 19時