二十一頁〜狂い始めた歯車2〜 ページ27
性別の結果が届く前と、完全に元通りという事もないんだよなあ。
こういった場面に遭遇(そうぐう)すれば嫌でも思い知らされる。
剛堂の場合、元からの性格もあったのだろう。
しかし第二の性別が判明してからというもの、彼は次々にβやΩを支配し、取り巻きや下僕として扱(あつか)う生徒を増やしていった。
第二の性別が判明すれば当然、差別も出てくる。
それが世の理(ことわり)であり、正しき運命。
そして誰も、その運命から逃れることはできない。
もちろん俺も例外ではない。
だからこそ俺は【何も聞かなかった】。少しでも俺が受ける被害を小さくするため、自分へと言い聞かせる。
罪悪感がないわけではない。
助けたい気持ちもある。
でもダメだ。
俺が行ったところで何もできやしない。
だから、【何も聞いていない】。
せめて剛堂が俺をαだと思ってくれていればいいのだが、そこへはあまり望みを懸(か)けられない。
俺がαであることを否定し続けたことが功(こう)を奏(そう)したのか。少なくとも多くの同級生は俺をβだと思っている。
それに加え、俺の本当の性別はΩだ。
過激派のαに喧嘩(けんか)を売るのはいささかレベルが高いというもの。
皆、見て見ぬふりをするのだ。
そもそも俺には絡(から)まれているβを助ける恩(おん)も義理もない。だから俺も……。
分かってる。分かってはいるんだ。
この場を離れるのが懸命(けんめい)だと。
見て見ぬふりをするべきたって。
分かってる。
でも。
「そんなとこで突っ立って、何してんの?」
俺の身体は、突然降りかかる声にピクリと反応する。
それに対し、声の主である平助は何の返答も無い俺を不思議そうに見ていた。
この様子だと俺が驚いたことには気付いていないのだろう。
その事実にこっそりと胸を撫(な)で下ろす。
「実はさ」
何事もなかったかのように平然を装(よそお)い、俺は視線だけを階段へと向けた。
俺の行動と、今だに聞こえてくる剛堂の声に合点がいったのか。彼は納得したように『あー……』っとこぼす。
かと思えば平助はためらうこと無く階段へ足を進める。
「えっ、ちょっ!」
さすがにこの行動には動揺を隠(かく)せなかった。
彼が乱入したところで何も変わらない。
「大丈夫だって」
止めようとする俺に彼は太陽のようにニッと笑って見せるものだから、それ以上はなにも言えなくなってしまった。
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作者名:フロース | 作成日時:2019年3月4日 19時