十四頁〜これは果たして恋なのか7〜 ページ19
「あいつ、ちゃんと返せって言ったのに」
次の授業は英語。つまりは俺も辞書が必要となるのだが、平助が辞書を返しに来る気配がない。
なので仕方なく平助のクラスに向かっていたのだが――。
「はぁー」
どうして他の教室へ入るのはこんなに緊張するのだろう。
平助は普通に俺のクラスに出入りしてたがこんなにも難易度が高かったとは。
あいつよくできたなあ、と謎(なぞ)の感心を抱く。
まあ、こんな場所でウダウダしていても仕方がない。
平助に対する恨(うら)み言をつらつらと頭の中で並べながら扉(とびら)に手をかけた。
ガラガラと控(ひか)えめな音がなる。
教室はがやがやと賑(にぎ)やかなためか、こちらに気づく者はいない。
ホッと息をついた。
しかしそれもほんのつかの間。
俺は思わず、教室の扉(とびら)を開ける手を途中で止めてしまった。
ある光景が目に入ったからだ。
それは何も珍(めず)しいものはない。
よくある風景。当たり前の日常。
瞳に写し出されたものはまさにそれ。
平助と他のクラスメイト4、5人とで話をしている。
ただそれだけ。本当にそれだけだったのだ。
なのにどうして胸が痛む。
ズキリと響くこれは何だ? 分からない。
寂(さみ)しくて、悲しくて、苦しくて。それから、それから……。
どうしようもなく居心地が悪くなった俺は、彼らから逃げ出すようにその場を後にした。
すでに辞書のことなど、頭の何処(どこ)にもない。
その目に焼き付いた光景が何故(なぜ)か離れない。
何だこれ、何だこれ、何だこれ……。
俺は足早に自分の教室へと戻り、机に突っ伏した。
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作者名:フロース | 作成日時:2019年3月4日 19時