短編集【ｲﾅｲﾚ・ｲﾅｺﾞ】3 (ページ28)

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【吹雪兄弟】ページ28

「アツヤ…アツヤ、どうしていなくなってしまったの、」

寒い雪の中、小さな背中を丸めて彼の遺品であるマフラーを抱えてひとり静かに泣く。

僕の大好きで、自慢の弟は、ちょっぴり口が悪くて、だけど根はとっても優しい子だった。サッカーも上手で、彼とふたりで僕たちは完璧だったのに。

彼のいない僕なんて、完璧には程遠い僕なんて。

きっと誰にも必要とされないんだ。

なんで、死んでしまったのが僕じゃなかったんだろう。もし僕じゃなくてアツヤが生きていたら。彼は僕がいなくてもきっと完璧になれる存在だったのに。

そう思えばまた涙が溢れてきて。ぎゅっと抱き締めたマフラーには温もりなんて一切なくて。

このまま、僕も彼がいる世界に連れて行って欲しいよ。このひとりきりの寒い世界なんて、もうばいばいしたいよ。

そんなことを考えていると、ふとどこからか声が聞こえてくる。

「兄貴、なあ兄貴」

「えっ…あ、あつや？」

「やっと、届いた。聞こえるか？」

「なん…で？」

「…お前が、寂しそうだったから。兄貴のそんな姿みたくなくて、マフラーに俺の魂だけ残したんだよ」

握り締めたままのマフラーを見つめる。

彼は、まだここにいたのだ。

「アツヤ…ッ、僕、ぼく嬉しいよ、」

「ん、俺も嬉しいよ、兄貴がそんなに俺を思ってくれてたなんてな、」

きっと彼は今、ほんのりと頬を赤らめて笑っているのだろう。そんな彼の姿なんて容易に想像ができてしまう。それに思わず、笑みを漏らしてしまった。

「ん、やっと笑ったな」

「…うん、アツヤがいると思うと嬉しくて、」

「なあ、そのマフラー身に付けてくれないか？」

「うん、いいよ」

彼に促されるままにマフラーを身につける。
そうすると、なんだか自分の身体の中にもうひとりの人格が入ってくるような、不思議な感覚に見舞われる。

「ん、こうすれば俺とお前でまた一緒にサッカーが出来るからな」

「また、一緒にアツヤとサッカーできるの？」

「おう、それでまた一緒に完璧になろう」

「…ふふ、うん！これからもアツヤとふたりで完璧になろう」

そうして、北海道の田舎町の小さな弱小サッカー部にひとりで守備も攻撃もできる完璧な男が誕生したのだった。

そんな彼に、さらなる試練が訪れるのは、少し遠い未来のおはなし。

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アレスよりも無印の世界線の彼らがすきです。