手を翳しても見える星 (ページ10)

今日:14 hit、昨日:19 hit、合計:31,329 hit

10 ページ10

だって友達と言われたとはいえ、ちょっと喋っただけだ。そんな奴がいきなり家に押しかけてくるなんて気持ち悪いんじゃないか？いやいや、おばあちゃんに頼まれてお裾分けを渡しにいくだけ。自意識過剰になるな。そもそも京本もおばあちゃんに会ったことない訳じゃないだろうし行っても分かってくれるだろう。…でも、わざわざ代わってまで会いに来たって思われるかもしれない…
ああ、ダメだ。落ち着いたと思ったのに、また止まらない思考に呑まれそうになる。

友達って言ったって、京本は2人きりが気まずいから仕方なく話しかけてくれたんじゃないか？同級生ならまだしも、転校生なんて。そもそも京本が症状を起こしたのだって俺のせいかもしれない。きっと俺が転校してきて普段の生活が崩れたから…

「ほくちゃん、夕ご飯食べようか」
「あ……うん」

いつの間にか強く握りしめていた手を、おばあちゃんがゆっくりと包み込んで一本ずつ指を開かせた。

「今日は入学のお祝いにたくさん作ったから運ぶの手伝ってね」
「うん」

立ち上がって、ゆっくりと一回だけ深呼吸をしてから台所へ向かった。

「何回も言っちゃうけど、本当に勉強机買わなくて良いの？」
「うん。今の机で十分勉強出来るから」
「でもずっと正座じゃきついでしょう？」
「慣れてるから平気だよ」
「そう？ならいいけど…」
「うん。あ、このおかず美味しい」

2人で向かい合って食卓を囲む。おばあちゃんはしつこいくらいに勉強机を買わなくていいのかと聞いてくるけど、元々お父さんが使っていた座卓は年季が相当入っている分重厚感があるし、和室によく似合っていて気に入っている。座布団はふかふかで足も痛くなりにくいし、なにより正座をするとスイッチが入るような感覚がして集中できた。

自室に戻ってぱたりと布団に倒れ込む。布団もやっぱりふかふかで、昔家族で旅行した時に泊まった旅館を思い出した。あの時は何本も電車を乗り継いで行ったんだっけ。木々を掻き分けて進んでいく景色をずっと眺めていた。

「……あ、もしもし？お母さん？うん。今日学校行ってきたよ。友達？うーん、どうだろう。あ、でも前の席の子とは少し話せたよ。うん。先生もいい人だし大丈夫。うん、また電話する。おやすみ」

友達は出来そう？なんて心配そうな声に、曖昧な返事をした。中途半端に開いた窓から入ってくる生ぬるい風が頬を撫でる。
窓から見える外は見渡す限り暗闇が広がっていて、明かりは一つも見えなかった。