手を翳しても見える星 (ページ11)

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…

「北斗」
「っえ、あ、京本、何？」

帰りの準備をしていると突然京本から話しかけられた。顔を上げた瞬間ぶつかった視線は、お互い微妙に逸れていく。それでも京本は意を決したようにこう言った。

「俺ん家、来て」
「えっと…いつ？」
「今」
「今！？いや、ごめん今日用事あって…」
「うん。知ってる。」
「え」
「じいちゃんのカレンダーに名前あるの見た」

「…」

腕を掴まれ、されるがままにいつもと違う道を歩く。京本は何も言わないけど、だんだん冷静になってきたのか歩みが遅くなってきていた。あ、そういえば自転車、学校に置いてきたままだ。

「あの、ごめん、急に」
「いや、大丈夫だけど…何かあったの？」

畦道の真ん中で立ち止まり、掴まれていた手をパッと離される。俺は掴まれていた方とは逆の腕を自分の手でぎゅっと掴みながら、おずおずとそう聞いた。

「何かあったわけじゃないけど…衝動的に話さなきゃ、って思って、考えなしにここまで来ちゃった。ごめん」

なんか急に正気に戻ったって感じ、と京本は苦笑いしながら謝ってきた。

「そう…」

正直なんて返せばいいか分からない。学校にも慣れてきて転入してきてからは1ヶ月が経ったけど、まだこの村自体はやってきたばかりでこの道だって今日初めて歩いた。
ここで「そっか。じゃあね」と帰ることだって出来ない。そもそもここからの帰り道が分からない。俺の少し前に立つ京本はんー、と何か言いたげな表情だけを残している。

「…あの、単刀直入に聞くけどさ、北斗、俺のこと避けてる？」
「ぅえ、それは、」
「なんか気に障るようなことした？」
「そういうわけじゃないけど、」
「けど？」
「こっちが、俺が、勝手に考えすぎて話しかけられなかったというか…」

小さな声での釈明は京本にはギリギリ聞き取れていたようだった。

「別に、しょうもないことでも何でも話してくれていいのに。相談とかは、内容によるかもしれないけど」
「うん、」

あの日変に考え込んでしまってから今日まで、どんな顔をして話せばいいのか分からなくなってしまっていた。
自然と距離を置いていた時に見えた京本のあの表情は、多分傷付いていた。

「ごめん、もうしない」
「うん。そうして。なんかあったら言って。何も言わずに距離取られるの、結構嫌だったから」
「…ごめん」
「いいよ」

いいよ、と言った京本の顔は笑顔で、安心した。本当に許してくれたか確かめたくて、もう一度謝ろうとしたけど、それはやめておいた。