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東京から来たのだと言う、綺麗な顔を重たい前髪で隠したその子は、6月にやってきた。





「じゃあ松村君、自己紹介してもらっていいかな」

先生に促されると、事前に用意してきたセリフが勝手に口から出てきた。緊張で何も話せなかったらどうしようかと不安だったが、昨日のうちに用意していてよかった。

「じゃああそこの席に座ってもらおうかな。視力悪いとかあった?」
「いや、大丈夫です」

窓際から2列目、1番後ろの席を指定されてそこへ向かう。
新しく転入したこの高校は、過疎化が進むこの村の山の上にある。生徒も1クラス30人程度で1学年2クラス。それが3学年分で計180人。定員割れが酷く、再来年には隣町の高校と合併するらしい。
3年生の受験期に合併の影響で環境が変わることになる事実を今の時点で憂いながらも、この変な時期に転入してきた異質なヤツを迎え入れてくれる、クラスの柔らかい雰囲気に少しの安堵を覚え、着席した。

「松村くん、よろしくね」

一つ前の席に座る女子生徒が振り返って話しかけてくる。いかにも田舎の女の子、といった素朴な印象だった。ほとんど目を合わせられなかったけど、目よりも下を見た感じ、多分そうだ。

ほとんど消え入りそうな声で「よろしく…」と返せば、それを聞き取った女の子は「分かんないことあったら何でも聞いてね」と笑って、また前へ向き直した。


6月となるともうすぐテスト期間が始まる時期。東京では中高一貫の進学校に通っていたんだ。勉強だって置いていかれることはないだろう。それでも慣れない環境で勉強に集中出来るかは分からない。

いや、心配はいけない。心の状態はすぐ身体に影響するから。今だって世界がぐるぐる回っているような感覚に襲われて、頭を上げられないでいる。

数分経てば収まるんだろうけど、その数分が苦しい。先生が何か言っているのも全く耳に入ってこなかった。
大丈夫。カバンには薬だって入っているし、学校には事情を伝えているから急に教室を飛び出したって怒られはしない。それに今ここで俺を責めるようなものは何もない。だから、大丈夫。
外からわずかに聞こえる雨の音を頼りに心を落ち着けよう。雨は気圧のせいで簡単に体調が悪くなるけど、嫌いじゃない。雨の音はどこか安心するし、気持ちも落ち着く。

よし、落ち着いてきた。
そうして静かに、ゆっくりと深呼吸を繰り返していた時、突然前の方からガタンという音がした。

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作者名:とほほ〜 | 作成日時:2023年5月8日 1時

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