【銀魂】闇に酔う悪魔

その意志 ページ29

ー土方サイドー






(・・相変わらず、)



不思議な女だ。

遊女特有の甘ったるい匂いや雰囲気、
媚びるような目線が、一つもない。


ただそこにいて、綺麗に笑う。それだけ。



お猪口に、静かに注がれていく酒。
手慣れた様子で酌を終えた女は、瓶を脇に置いた。

艶やかに揺れる透明の酒は、部屋の明かりをうけ、
鈍く光る。その様子を見たAはホッとしたように
息をついた。








「・・久々だったけど、うまくいってよかった」


「何だ、他の客は飲まねーのか」

「前も言ったじゃないか。男どもがお目当てとして
くるのは、専ら"アレ"だってね」




使われることなく綺麗に整えられた布団が
目に入った。早々にあそこに飛び込んでいく野郎に
毎晩触れられている。その事実に、なぜかぎゅっと
胸が掴まれるようだった。

そんな意味のわからない感情とともに、
酒を喉の奥へと流し込む。アルコール特有の熱さが
喉を少し焼いていった。





「おお、良い飲みっぷりだねえ」



楽しげに手を叩いたA。
何はともあれ、ーーこいつが笑っているならば
それでいいと。そんな甘い考えが出てきてしまうほどには、感化されちまっているらしい。






「・・上等な酒だな」


「ふふ、わかってもらえて嬉しいよ」





強めのアルコールの中に残る上品な甘さと匂い。
そこらの安酒とは違った。


こりゃあ確かに、酒好きが好みそうな味だ。







「あんたは、飲まねーのか」


「え？私？」





少し迷うように目を泳がせたそいつは、
ゆるく首を振った。




「これは、お兄さんのために用意した物だからね。
私が口をつけるわけにはいかないよ」


「酒豪が、酒を前にして飲みたいと思わねェはずが
ねェ。・・遠慮なんざしなくていい」


「・・えっと、」

「俺のために用意したってんなら、俺があんたに
一杯譲るこたァ許されるんだろ？」




俺の言葉に目を見開いたAは、
しばらく考えるそぶりを見せた後、ふっ、と
小さく笑った。







「ーー全く、・・お兄さんには敵わないよ」




お猪口がもう一つ取り出され、
そいつの細く白い指の間に置かれた。

その姿に、ひどく安堵した。



ーーーそいつが、自分の意志を示したのだから。




重い瓶を持ち上げた。
中でタプタプと揺れる酒を、そいつの持つお猪口に
注いでやると、赤い口紅を塗りつけた唇の隙間へと
酒が吸い込まれていく


「美味しい」と。女がそう一言漏らしたのが、
何だか嬉しかったのだ。

ただ、笑え→←約束のそれ

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